隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
お目当てのカフェの前には、10人ほどが並んでいた。
「30分位かかるかな?」
順番に並んだ客が座るイスは、あと2脚しか空いていない。博之がそれに愛音と小原を座らせようとすると、
「いいえ、私いいですから木田さん座ってください」
「いやいや。すぐ順に空くだろうから、先に二人座って」
「あ、それなら私、この間にチョコ買って来るから、パパ、小原さんと並んでてよ」
愛音はゆっくり後ずさりしながら言うと、
「ああ、そうしようか」
と、博之が答えた。愛音はニッコリと笑ったあと、身を翻して足早に歩いて行ってしまった。
博之と小原はちょっとバツが悪く、
「座ろっか」
「なんか、気まずくないですか? 愛音さん怒ってらっしゃらないですか?」
二人は椅子に腰かけた。
「何で怒るの?」
「デートだったんでしょ?」
「そんなんじゃないってのに、もう」
小原は、ちょっと真顔で紙袋の中をごそごそとしだした。
「先にこれ渡しときます。いつも気にかけてくださって、ありがとうございます」
きれいにラッピングされたチョコレートの箱を取り出した。それは以前、博之が絶賛して小原に話したことがある銘柄のものだった。
「うわあ。ありがとう。なんかゴメンね。予定外に早く貰っちゃうけど」
「今渡さないと、きっと渡せなくなりそうだったから」
「どうしてさ?」
「・・・愛音さん、きっと豪華なやつ買って来られますよ。そうしたら私のなんか、渡しづらくなると思って」
「そうかな? あいつにそんなの貰う必要ないけどな。チロル買って来るぞ、きっと」
「ああ、そんなこと言っちゃって、私、愛音さんに憎まれるじゃないですか(笑)」
「愛音はそんなことしないよ」
「ほら、ホントの親子みたいですね」
「そう見られるのはいいもんだよ。最近あいつも、幸せを感じるんだって言ってたんだ」
「破局したのにですか?」
「そうだよ。やっと相手が家から出てってくれて、向こうの親にも婚約解消を報告出来たしね」
「よかったですね」