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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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 二人はエスカレーターで上層階のカフェに向かった。その時、博之はある匂いに気が付いた。二人の少し前に、背の低いロングコートの女性が立っていて、進むエスカレーターに、はっきりと覚えのある香水の匂いが漂っていたのだ。博之は後姿でも、すぐにそれが小原だと判った。
 小原がエスカレーターを乗り継ぐ際に折り返した時、顔がはっきり見えた。
「おーい」
博之が早足で近付いたので、彼女も博之に気付いた。そして、驚いた目をして、
「あっ! どうしたんですか?」
「そっちこそ、買い物?」
と、二人は急に笑顔を作って話した。その時、博之は小原の一段下のステップに立つと、目線の位置は同じくらいになった。後ろから愛音が追い付いたのに気付いて、小原はとっさに博之から距離をとった。
「紹介するよ。この子が愛音」
「あ、そうなんですか。あの、あ、こんにちは、小原といいます」
「はじめまして、川島です」
二人は、ぎこちなく挨拶を交わした。
「もう、木田さん、デートじゃないですかぁ」
「うん。そうなんですけど」
「おっと、否定しない。なんだかちょっと・・・」
愛音の前でも、ちょっと口を尖らせて、わざと悲しそうな眼差しをした。さすが小原だ。
「うそうそ。先生の墓参りに行って来たんだ」
「そうだったんですか」
「母をご存知なんですか?」
ちょっと驚いて、愛音が聞いた。
「ええ。少し伺ったことがあります。愛音さんのこともいつも話されていますよ」
「ええー。そうなんですか? 木田さんの会社の方なんですか?」
「ああ、そうなんだ。愛音には話したことなかったな」
今の一言で愛音は勘付いた。(普通の部下なら私に話す必要なんかないじゃない。特別な関係なわけ?)
 ここでエスカレーターは上階にたどり着き、3人はその場で立ち止まった。
「何階に行くの?」
「ちょっと服見て帰ろうかと思って」
「俺達、お茶しに行くとこなんだけど、一緒にどう?」
博之は力一杯に笑顔を作って、誘ってみた。その博之らしからぬ表情に小原は、断らせないつもりなのかと思った。そしてもっと愛音と引き合わせようとしているんだと感じ、
「お邪魔じゃないんですか?」
「そんなことないよ。な、愛音」
「パパがそうしたいんだったら」
「うん。行こうよ。おごるから」
博之は小原が持つ紙袋の中身が気になって、自分へのチョコレートかもと思い、そう言って誘ってみた。そしてバレンタインとして、ごちそうしてくれるはずだった愛音には軽くウィンクした。
「へへへ。ホントにパパって呼ばれてるんですね。じゃ、お言葉に甘えていいですか」
3人はもう一度歩き出して、エスカレーターでさらに上の階を目指した。