隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
愛音は、笑いながら博之の腕に手を回した。これは初めての行為だった。
「おい。そんなことしたら、恥ずかしいじゃないか」
「パパ。若い子にこんなことしてもらってないの?」
「そんな相手いないよ。それ、親子の会話じゃないぞ」
「ま、しっかりした親子関係でもないし。これくらいはいいでしょ」
「そうだな。お前が俺を避けたりしないでくれて本当によかった」
「私もパパがパパで本当によかった」
「なんだそれ?」
「知子さんとも仲良くなれたし、あきちゃんも私にはもったいないくらい賢い妹だし」
「そろそろ、秋日子にも説明しないとな。どういう反応するかな」
「きっと大丈夫よ。喜んでくれると思うから」
「俺に対して、どんな理解をするかが気になるよ」
「もう中学生だから意味は解るけど、どう受け取るかよね」
「なんか心配だな俺」
「でも私、今まで寂しい人生だと思ってたけど、急に幸せな気分になって来たの」
「婚約解消したのにか?」
「うん、なんかそれは義務的に結婚しようとしてた感じ。幸せにならなくっちゃって」
「赤ちゃんも育てないといけないし、いろいろと大変だけどな。俺らが力になるから」
「ありがとう。今まで幸せは半分くらいしか感じて来なかったのに、パパのおかげで残りの1/2も掴めた気がするわ」
「それはよかった。でも、結婚も諦めないでくれ」
「それは諦めたくないけど、もう年だし。暫くは子育てに専念しなくちゃね」
デパートの催し物会場では、バレンタインフェアが開催されている。日本全国の有名店のアソートを一同に介し、多くの女性たちで賑わっていた。
「この中から自分で選んでよ」
「俺が選ぶのか。それならチロルでいいよ」
「そういうわけにも行かないじゃない。どれがいい?」
「それなら、チョコパフェでも奢ってくれ。その方が嬉しいな」
「そう、じゃこの上にいい店があるから、ちょっと並ばないといけないかもしれないけど」
「いいよ。そうしよう」