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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2

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第31章 バレンタイン



 それからというもの、博之は暫くぶりの平穏な日々を過ごした。
 小原の旦那の浮気相談も落ち着き、彼女の笑顔を見る機会も増えた。その反面、博之に泣き付くように頼って来ることもなくなり、恒例ミーティングも行われなくなった。少し寂しい気もしていたが、彼女は新婚の人妻、これが当然の距離感なのである。
 新・新映像チームの業務進捗では、丸川が残したトラブルで一層現場はドタバタしたが、却って意識が高まり、手分けするにもお互いに確認し合うようになって、作業分担の効率化が進んだ。博之はもうほとんど手助けしなくても、彼らチームだけで仕事をこなしてくれている。藤尾はリーダーとして、たった3週間でチームを軌道に乗せたことになる。彼は2月から正式に責任者となり、同時に主任に昇格させることになるだろう。それをサポートした岩瀬もリーダーに昇格だ。

 秋日子は合格発表以降、安心したのか口数が増えた。家にいる時はほとんど喋っている。食事の時も、テレビを見ている時も、博之が帰宅するなり口を閉じることがないくらいに。それはそれで平和なことだが、もし博之がトラブルだらけで、悩みを一杯に抱えていた時期だったら、我慢出来ただろうか。

 残りの心配は、愛音のことだ。家を出てくれた拓君のことは一安心だったが、まだ家には彼の荷物が残っていて、それを取りに来ないことを愛音がこぼしていたからだ。
 そして、バレンタイン直前の日曜日。この日は愛音の母親ひとみ先生の命日だった。博之は午前中に愛音の家を訪れ、ホームセンターで購入したモルタルで、壊れたガレージのコンクリートを補修してやった後、昼食に愛音が作ったサンドイッチを食べて、午後から二人で墓参りに訪れた。これには知子もさすがに付いては来ない。彼女にとっては間違いなく他人なのだから。
 博之は、ひとみ先生が好きだった大きなユリの花を、墓前に供えて手を合わせた。愛音も横にしゃがんで手を合わすと、長い沈黙が続いた。博之は穏やかに眼を閉じている愛音の横顔を見ては、もう一度手を合わせて待たなければならなかった。その時間は3分以上続いたが、それは故人に報告することがあまりに多かったので仕方ない。
「何話したんだ?」
「拓君のこと」
「先生は分かってくれるさ」
「パパのことも話しといた」
「俺のこと? どんなふうに?」
「お母さん、ありがとうって」

 その後、二人は市内の繁華街へと足を運んだ。クリスマスのコートのお礼とバレンタインということもあって、愛音が博之をショッピングに誘ったからだった。
 二人で歩くのもすっかり慣れて、仲のいい親子とまでは行かないまでも、二人の中に家族意識がはっきりと芽生え、遠慮なく話し合えることが博之は嬉しかった。
「パパ。今何がほしい?」
「うーん。金魚の水層に水草を入れたい」
「な、何それ。デパートに売ってないじゃないよ」