隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「小原さん、内容まで確認してくれてるんですか?」
藤尾が驚いて聞いた。
「もちろんよ」
「じゃ、その時も部下にリストを出させて、内容に問題なかったんだね」
「絶対に大丈夫です」
その後小原は部下に、そのリストを確実に丸川係長に渡したか確認したが問題はなかった。
(なんだよ。丸川のやつ、退職間際でいい加減な仕事したんじゃないだろうな)博之は信用出来ない彼を疑ったが、その場にいた全員がそう考えていたに違いない。
博之は一応、他の案件の資料に紛れてないか探してみたが、最終チェックリストはどこからも出てこず、それどころか、その他の資料もところどころ抜けがあったり、白紙のチェックリストのままのものもあったり、目を疑う状況だった。
「こんな資料で今までどうやって、V編集や作業報告書の入力をやってたんだ?」
この質問には誰も返答できなかった。
「何かおかしいなとか、こんなのじゃまずいなって思ってただろ」
「すみません。いつかこんなことになるだろうと薄々は感じてました」
と藤尾が申しわけなさそうに言った。
「逆にこんな状況で、よく乗り切ってこられたな。丸川係長が自分で管理してるから、ボロ出さないできただけか」
「係長がいなくなったら、誤魔化してた部分が私らには分からないから、手の打ちようが無いわ」
パートの女性がそう言うと、岩瀬が、
「こんなことが続かないように、藤尾さんが改善しようとしてくれてるんだ」
「よし! 悩んでても仕方ない。そのVは、まだパイロット版だろ。すぐに修正して交換しよう」
「はい!」
「それと、今日からの作業日報には、修正とかやり直しとか無駄な作業が発生したら、その欄は黄色にしておいてくれ。無駄な工数を“見える化”して、ちょっとでも減らせるように意識していこう」
「はい!」
その後、有給消化中の丸川に電話しても、本人は出なかった。
丸川係長退職日の1月20日になっても、本人とは連絡が取れず、IDカードや貸与品は郵送で返却されて来た。
(最後の最後に爆弾を残して行きやがったな。それが分かってたから、有給消化して逃げたのか)と博之は思ったが、事務所で怒った表情をしてしまい、小原から、
「殺人犯みたいな顔になってますよ(笑)」
と注意された。