隠子の婚約＋美人の退職＋愛娘の受験＋仕事の責任＝幸せの1/2
「俺食べたい。今朝何も食べてないんだ」
「そうだったの。昨日の晩は？」
「ネパールでカレー食べて来た」
「そんな遠回りして食べて来たの」
「部下の子、連れて行ったから」
「退職するって子でしょ」
「そうだけど、問題ないだろ」
「別にいいんじゃない？ 可愛い子なんでしょ」
「ホントに美人だけど、血吸われそうなタイプの美人。お前の友達にはいない感じ」
「もういい年なんだから」
「マジそう思うよ。20も違うと、さすがに遠慮してしまうな」
「もうちょっと若い時だったらどうする気だったの？」
「バカ言うな。周囲の目もあるのに、部下に手を出すようなことしないよ」
博之はアンパンを頬張った。小原のことはたまに話していたが、妻がピンポイントで小原の話をして来たのは初めてだった。
「よく出来る子だったんでしょ」
「そうだな。一番信頼出来る仕事ぶりだったな。事務員でもないし秘書でもないけど、俺の予定を完璧に覚えていてくれて、目となり耳となりって感じで」
「あなたの好きそうなタイプじゃない」
「まあそうだけど。付き合ったら、性格は合わないと思うけど」
「あはは、具体的に考えてたのね」
「お前が言わせてるんじゃないか」
博之は後ろめたい気もして、少し焦りだした。そこに愛音が小走りで帰って来た。
「愛ちゃんどうしたの？」
博之は、知子の顔が心配そうに変わったのを見て振り返り、愛音が戻って来たので少し助かったと思った。
「拓君のお母さんから電話がかかって来たの。どうしよう？ パパ、なんでアンパン食べてんの？」
「腹減ってる。かけ直すしかないだろ」
「そうだけど、こんなところで？ 外は雪降って寒いし、今は嫌なんだけど、どうしよう」
「無視するか？」
「出来るわけないじゃん。きっと婚約解消で文句言われる。なんて言おう？」