隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
そして博之は、仕事でも悩みを抱えていた。それは、売り上げが落ちることを先期から予想していて、取引先の『マルケン』という会社から、新しい業務を契約して来ていたのだが、それを任した丸川係長の仕事がまずく、うまくいっていないようだった。その件については、社長から逐一報告を求められていた。
「社長、人材不足ですので、これ以上働かせると勤務時間が、36(サブロク)協定違反になってしまいます」
「それでも何とかさせなきゃ、納期が間に合わんだろう。他から誰かまわせんのか」
「すでに応援体制を取ってるんですけど、肝心の丸川が定時で帰ったりしてますんで、誰も本気になろうとしてない気がするんですよ」
「あいつけしからんな。でも奥さんが妊娠中だとか言っとたな。まあ、いろいろあるんだろ。女子でもいいから手伝わせろ」
「実は、女子の方は小原主任が退職するんで、その引継ぎで精一杯なんです」
「あの娘、辞めるのか?」
「はい、年内でと聞いています」
「木田部長にも、これ以上負担をかけられんしな。よし、台湾の子会社から作業者を呼ぼう」
「それが、以前そこからの応援で繁忙期を乗り切りましたけど、丸川は外国語は全くですよ」
「通訳を雇う余裕はないか?」
「それなら通訳に作業させますよ」
「はっはっはっは。そりゃそうだな。実際、赤字にだけは気を付けてくれよ」
博之は丸川係長を商談室に呼び出した。
「丸ちゃん、新映像チームは立ち上がりそうか?」
「いやあ、難しいですね。これだけ人が少なかったら、物理的に無理ですよ」
「でも7月からスタートさせて、もう2ヶ月経つけど、イベント会場でもすでに5回はセットアップを経験してるだろ」
「それは何とかこなせてます」
「トレーニング期間は今月までで、10月からは君のチームだけでやっていかないといけないんだぞ」
「それは無理ですよ。人が足りません」
丸川は、横を向いて視線を合わせない。
「じゃ、なんでもっと早く僕に相談したり、人の募集をかけないんだ?」
「人を入れても今はいいですけど、仕事がなくなって来たらどうするんですか?」
姿勢を変えながら、ようやく博之の目を見て言った。
「そうならないように、君が営業もするんじゃないか。現場監督だけしてればいいってもんじゃないだろう」
再び目を逸らす丸川係長だった。