隠子の婚約+美人の退職+愛娘の受験+仕事の責任=幸せの1/2
「宣言はしませんよ。でもどうなるかなんか判らないじゃないですか」
「だから旦那に浮気されても、結構受け入れられたんだな」
「自分が被害者になるのはイヤですよ。でも自分も今まで、人をそんなことで非難出来なかったし。木田さんなら解りますよね」
「俺たち同類?」(似たようなもんかな)と博之は苦笑いした。
「愛音さんは、隠子じゃないんですか?」
「そうだとしたら驚かないのか?」
「そんなこともありますよ」
「ははは。でも違うよ。親子ごっこしてるのは確かだけど。俺は先生との思い出の方を大事にしてるだけだよ」
「本当ですか? それで向こうはどうして、木田さんを探しに来たんですか?」
「うん。先生にとっても俺は、いい思い出だったんだよ、きっと。中学の時にあげたプレゼント、今も残ってるくらいだから」
「へえ!? それは、それ程に特別な生徒だったってことでしょ」
「先生が中学で教師したのは、あの1年間だけだったんだよ。だから俺のことは、しっかり覚えてくれてたんだ」
「ふうん。愛音さん。なんか羨ましいな。木田さんを独占じゃないですか」
「そんなことはないけど」
(俺の気持ち的には、小原のことばっかり考えてるんだけど)と思いながら、慎重に笑顔を作った。
博之はマトンカレーにナンを浸けながら食べている。小原はエビカレーだったが、ライスで食べていた。
「ちょっとそれに浸けてもいい?」
「どうぞどうぞ。私こんなにいっぱい食べきれないんで」
博之は小原の皿のカレーに、ちぎったナンを浸けて食べた。
「マトンもよかったら」
博之はカレーの入った皿を小原に近付けた。それに小原はスプーンを近付けて、
「私のスプーン、浸けてもいいですか?」
「いいよ」
「間接キスっぽいですよ」
「気にすんな」
この雰囲気、二人は以前に比べ、かなり関係が接近していると実感していたが、そんなことはお互い言葉にはしなかった。