花火
再会
明が交通事故で救急車で病院に運ばれたとき、そこにいた看護師がすずであった。足の骨折の痛みがあったが、明は25年ぶりに会った喜びで、痛さを忘れられた。『すず』と声をかけたかったが、それは堪えた。
病室のベットに寝かされると、『すぐに診察になります』とすずが言った。声も昔のままの澄んだ声であった。
すずの声が途切れると、消防士から、住所氏名の確認をされた。その後で、医師の診断があった。
「手術の必要はありませんが、骨折ですから2週間程度の入院になります」
と言った。
明は嬉しくなった。すずと一緒にいられる。でも、すずは事務的な言葉だけであった。
明は自分がすずをすぐに判ったように、すずも自分のことが判ってくれていると判断していた。すずの事務的な態度は、明には冷酷にさえ感じた。
明が東京の大学に行くとき、すずは見送ってくれた。別れの時、すずがハグを求めたのだが、明は人目を気にして拒んでしまったのだった。
明が大学を卒業した時には、すずは結婚していた。それ以来の再会であった。明はすずと結婚したい気持ちがあったが、それがかなわなかったことのショックで、明も働くことになった銀行で3歳年上の女性とすぐに結婚した。子供も長女が翌年に生まれた。2年置いて長男も生まれた。幸せな家庭であった。
なぜか分からないが、明はすずとハグが無性にしたいと思っていた。既婚者であっても、それくらいなら許される気がしていた。
そんな気持ちの時に、明の妻が見舞いに来た。
「あなたは加害者ではないでしょうね」
明にとっては慣れてしまった妻の気持であったが、すずを意識してしまうと、その言葉はあまりにも優しさの開きを感じた。医大に通う長男の学費のことが心配なのだろう。些細なことで出世から外されてしまえば、莫大なローンの返済にも困るからだ。65歳定年まで、細かに決められた計画から外れることは許されないのだ。
「僕は左を走っていたし、相手の車が一時停止ラインからはみ出したんだ。それで僕のバイクに当たったから、僕は悪くはないと思うが・・・」
「良かった。具合はどう」
「少し、入院になるらしい」
「そう、お見舞い毎日は無理ですよ」
「完全看護だから大丈夫」
明はむしろ喜んだ。