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生まれ変わりの真実

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 廣田美由紀は、今年で三十歳になるが、離婚経験もあるので、年齢よりも落ち着いて見えた。
 それは、老けて見えるというわけではなく、時々口をポカンと開けていて、何も考えていないように見えるからであった。考えていることはよく分からなくても、普段から優しい美由紀は、仲良くなれば、結構長く付き合っていける相手であった。
 実際に、学生時代からの付き合いの人も多く、むしろ社会人になってから友達になった人よりも、学生時代の頃の友達の方が多いくらいだ。それでも、皆結婚したり、仕事が忙しかったりで、なかなか連絡を取り合う相手が減ってきたのも事実だった。
 それでも、学生時代からの友達は大切にしていきたいという思いから、誘いがあった時は、なるべく参加するようにしている。それでも離婚した最初の年の同窓会は、さすがに辛く、途中で帰ってきたほどだった。当時は目立っていた美由紀が、今は控えめな性格になっていることも、辛くなる要因だったが、離婚を経験すれば、それも仕方のないこと。好きだった人の顔をまともに見ることができなかった自分が、まだまだ学生時代の友達に会えば、気分は学生時代に戻ってしまうことも分かった気がした。
 美由紀は、学生時代の友達に会うのが嫌なわけではない。だが、その中の一人と会うのは嫌だった。名前を迫丸といい、彼からは、いつも苛められているイメージしか残っていなかった。
「好きな女の子は、苛めたくなるっていうからね」
 後から、他の人から、迫丸が美由紀を好きだったことを聞かされ、却って気持ち悪くなった。迫丸という男は、美由紀から見て、気持ち悪さしかない男性だった。視線を思い出しただけでも身震いするほどで、
「あんな男に好かれていたなんて」
 と、思っただけで、まるでヘビに睨まれたカエルの絵を見ているような気持ち悪さが襲ってくるのだった。
 ただ、彼の思いはどうやら本物だったようだ。美由紀に対しての思いは、少し異常なところもあったようだが、好きだという気持ちは純粋なものだった。
 美由紀のことを好きだと言って、告白してくる男子もいたが、気持ち悪さは感じないが、本当に好かれているのかが、美由紀には分からなかった。少なくとも、どこまで好かれているのかという判断は、見ただけでは分からない。付き合って見なければ分からず、実際に付き合ってみると、
「付き合うんじゃなかった」
 と、失望させられることが多かった。
 だが、彼らに対して気持ち悪さがないだけに、呆れてしまってはいるが、もう二度と会いたくないという思いはない。お互いに、好きでもない相手と付き合ってみて、結局、当然のごとく別れるようになっただけである。
 同窓会では、彼らとも顔を合わせることになるが、お互いに気にしていない。むしろ、学生時代の思い出として、今では笑い話になるくらいだった。卒業してしまえば、心境も変わる。特に成長期では、変化に飛んだ毎日を過ごしていたからである。
 迫丸に対してだけは、笑い話では済まない。付き合った経験もないが、彼には悪戯をされた感覚が強かった。
 しかも、ハッキリと覚えていないのだ。何か睡眠薬のようなもので眠らされて、悪戯をされた感覚があった。最後の一線を超えることはなかったが、それも、彼の性格で、眠っている相手を犯しても、興奮に至らないというのが、理由だったようだ。
 目が冷めた状態で、美由紀が蹂躙され、迫丸に犯されるなどということはありえなかった。
 迫丸は、身体も小さく、気も小さい男だった。相手を好きになったら、自分も好かれるようにしようという考えはなく、蹂躙することで、快感を得る方に走ってしまっていた。蹂躙することで、相手の羞恥心を煽り、羞恥心で精神が歪んでしまった様子を見て、自分が快感に震えるといった、変態チックな恋愛しかできない男のようだ。
 彼から好かれると、金縛りにあったような気分になる。
 まわりの誰も気づかないが、好かれた本人である自分だけが気付くことで、震えが止まらなくなる。助けてほしいという反面、知られたくないという思いが交差して、
「どうして、私がこんな目に遭わなければいけないの」
 と、被害妄想だけが、美由紀を包んでいた。
 被害妄想は、自分の運命の性に恨みを求める。恨んでみても、どうすることもできないが、まずは時間だけでも先に進んでくれないかという思いを抱くだけであった。
 迫丸は、なかなか美由紀を抱こうとしない。じっと見つめているだけで、自分の興奮を高めているようだった。
――早く済ませてよ――
 蹂躙されることを認めたわけではないが、どうせ逃げられないのなら、早く済ませてもらった方がいいという考えに至った。美由紀のそんな気持ちを悟ったのか、迫丸の顔は、淫らに歪んだ。
 笑っているように見えるが、とても微笑んでいるようには見えない。
「笑い顔にも種類があるなんて」
 と、その時に美由紀は初めて悟ったのだ。
 その時の感覚は段階に近いものだったに違いない。
 笑顔が、穏やかな感覚を醸し出すのに対し、迫丸の笑った顔は、笑っていると、どうして分かったのかと思うほど、歪に歪んでいた。
――人がこんな顔をするなんて――
 映画やテレビで見た悪魔の形相に似ていた。
 ひょっとすると、映画やテレビで作られている悪魔の顔の原型は、人間を元にしているのではないかと思った。悪魔というものだって、結局は昔の人が創造したもの、実際に会ったことがある人などいないと思えば、人間の中でも歪な形相を、悪魔として創造したのであれば、理屈に合う。元が人間だということが分かれば、少しは恐怖心も和らぐというものである。
 だが、実際にはそうではない。悪魔が実際にいるかいないかは別として、悪魔を想像するに至るだけの人間が存在しているということである。それは誰もが疑わない暗黙の了解の元、悪魔の存在を信じない人でも、人の恐ろしさを知っている人はいることだろう。子供の頃には、分かっている人は少ないが、それでも知っている人はいたことだろう。迫丸は、
「人間の皮をかぶった悪魔」
 ではないだろうか。
 迫丸は、美由紀の顔を舐めるように見ると、今度は、足元に顔を寄せてきた。
「ひぃ」
 思わず、声にならない声を発したが、その声に気付いたか気付いていないか分からないが、迫丸は、足元に神経を集中させていた。
 指が勝手に動いた。痙攣してしまうのではないかと思ったが、必死で堪えることができた。もしこのまま足が痙攣してしまったら、意識が遠のいてしまうのではないかと思い、必死に堪えたのだった。
 薄暗い部屋であった。そこがどこだか分からない。とにかく逃げたい一心だが、どこだか分からないのに、闇雲に逃げるのも、危険である。
 だが、そんな心境にも関わらず、次第に薄暗さに目が慣れてくるどころか、さらに暗さが押し寄せてくるほどだった。
――前が見えない――
 目を瞑っても開けていても、同じ感覚であった。目の前に真っ赤な放射状の細かい線が、まるで毛細血管のように、張り巡らせていた。
 今度は、胸の鼓動の激しさを感じた。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次