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ふじもとじゅんいち
ふじもとじゅんいち
novelistID. 63519
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サイバードリーミーホリデイズ

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──振込みがなくなったことを知っている奴がいる?一体全体どういうことだ?しかも俺の正体が分かってるだと?
「意味分からん、意味分からん」
 と同じことを二度つぶやく。差出人の名はないが、アドレスをコピーし、脅迫名簿ファイルを開き検索をかけ、照合してみるが該当者は見つからない。
──俺の脅迫メールに腹を立てた奴が何だかの方法で、今の俺の状態を知ってメールしてきたというのならばまだ分かるとして、何も関係ない奴が何でこんなメールを送る必要があるんだ?
 これはもう直接問い質さないと気分が収まらないと、昌晃はそのメールの差出人に返信をすることにした。
「お前、何者だ。舐めてんのか?ぶっ殺す。絶対にぶっ殺す」
 そう書いて送信ボタンを押した。

 大晦日。夜七時半。夕食を食べ終え、怜奈はパソコンを使って年賀状メールを制作しているところだった。来年の干支であるトラのイラストを使い、黄色と黒のツートーンでデザインしたシンプルな年賀状。なかなかの出来栄えに満足していたところにメールの着信音が鳴った。
 差出人は不明だがアドレスから内海昌晃からのメールだと判明した。まさか返信があるとは思っていなかったので少し意表に突かれたが、開けてみると案の定怒り狂っているようだった。
「お前、何者だ。舐めてんのか?ぶっ殺す。絶対にぶっ殺す」
──殺すって、どうやって殺すんでしょうねえ?
 と苦笑するが、少し相手してやろうと返信することにし、キーボードを叩いた。
「おやおや、やっとお気づきになりましたか。随分威勢のいいこと書いてるけど、あんた今、目泳いでるだろ(苦笑)で、年越せるんですか?新居やら家具やら電化製品やら、金使い荒らそうですもんねえ(笑)何はともあれ警察に自首でもしたら?あそこの牢屋なら暖房完備。三食昼寝つきですしね?

あっ、それとこれおまけな。
名前:内海昌晃
生年月日:一九九五年生まれ三十八歳
住所:大田区西蒲田
出身:富山県滑川市
 だからお前の正体分かってんだよこっちは。地獄まで追いかけるからな。そのつもりでいろ」

 内海昌晃は送られてきたメールを読んで愕然としている。
──全部割れている?意味分からん。こいつの目的は何だ?金か?
──こっちは丸裸で、向こうのことはまるで分からん。どう考えても勝ち目はない。
 そう思い、再度メールする。
「だからよ、お前どうして俺のこと知ってんだよ。お前、俺を強請(ゆす)ろうってのか。残念だがな、金ならもう一銭もねえんだよ。とにかくだな入金が途絶えた理由教えろや。それが分かってまた入金されるようになったら、百万ぐらいならお前にくれてやるからよ。それとも、警察にもすでに通報済みなのか?意味分からねえんだよ!」
 はっきりと混乱し動揺していることが手に取るように分かる文面。怜奈はいつまでも付き合う理由はないと最後のメールを送ることにした。
「狐に包まれたっていう感じですか。超うける。入金が途絶えた理由なんてね、あんたが三べん回ってわんって百万回言っても教えるわけないだろうが。私はねあんたに騙された数万人の総意で書いてるの。私が言えるのはとにかく自首しなさい、ってこと。それだけ。それにね、あんたには丸っきり似合わない綺麗な奥さんと息子さん、あんたのやってること知ってるの?ばっかじゃないの?子持ちのおっさんがやることか?ちょーサイテイ野郎だな。いずれにせよもう返信いらないからね。ではではよいお年を」
 怜奈は結局年内に捕まらなかったことに、鈍い警察の動きに腹を立てながら、メールを送り終わるとメーラーを閉じた。そして年賀状メールの最終チェックにかかろうとしたその時だった。突然パソコンが固まったのか動かなくなる。
──ん?な、何これ?……
 そして今度は勝手にブラウザが立ち上がり、どういうわけか二羽のカラスを主人公にしたアニメ「ヘッケル&ジャッケル」が唐突にはじまった。
──あっこのアニメ好きなんだけど。お祖母ちゃんところでDVD見たことあるやつじゃん。でも何で??
 怜奈は次の瞬間乗っ取られたのかも知れないと理解したが、それでも乗っ取られる意味が分からない。まさか内海昌晃だろうかと疑ったが、それは有り得ない。
 やがて二羽のカラスが、偉そうにしていけすかないブルドッグの頭に水の入ったバケツをかぶせ、いたずらの限りを尽くすと、「ぼくたちは世界中どこにだっていたずらしに行くんだぜ」と言って空の彼方に飛び去って行くとアニメが終わり、突如意味不明なメッセージが現れた。
「誠に申し訳ありませんが、ほんの一時間皆様方のお力をお借りしたい。きっかり一時間で終わります。これからはじまる新しい世界のためにどうかお力添えください」
──皆様方?ってことは、これって、DDOS攻撃ってこと……?
 多少でもハッキングを理解している人間なら、この現象が何なのかは理解はする。しかし誰が何のためにとなると、当然さっぱり分からない。ふと背後にBGM代わりにつけていたテレビが無音になり、画面も真っ暗になっていることに気付いた。何だか知らないけど、とてつもない何かがが起きている。メッセージでは一時間だけと言っているので、それを信じれば九時には解除されるわけだ。今はただその一時間を待つ以外ないということだと怜奈は理解し、気味が悪いので祈りながらパソコンのコンセントを強引に引き抜いて、電源を落とした。

 その頃、怜奈のメールを読み終えた昌晃は「綺麗な奥さん?息子?」とさらにわけの分からないことが書かれているのを読んで
──カレンのこと言ってんのか、もしかしてカレンの知り合いなのか?
 と混乱に拍車がかかり、またまた問い質さねば気が済まないと新たなメールを書いていると、突然、同じようにパソコンが動かなくなり、妙なアニメが勝手に流れ出し、何が何だか分からない状況にただ呆然としていた。入金が途絶えたり、自分のことを何故か知っている奴からメールが来たり、止めを刺されるかのようにパソコンが動かなくなる。何もかもが理解できなかった。パソコンが動かなくなったのも同じ奴の仕業なのか。もちろん調べようもないが。十日前まさか一文無しで正月を迎えることになるとは露程にも思っていなかったが、それも遠い過去のように思えた。いっそ死んでやるかと自暴自棄になりながら、部屋に残っていたウイスキーをストレートで呷った。
 
 
 
 
 
 
 
 
Noah-bot 六千七十番目のつぶやき 
「鎖につながれて毎日を送りながら、
自分の手の中に鍵があることに
気付かない者がなんと多いことか」
(イーグルス)


Noah-bot 七千五百七十九番目のつぶやき
人間だけが 息つくひまなく動きまわり
忙しさとひきかえに 大切なものを
ぽとぽとと落としてゆきます
(茨木のり子)


Noah-bot 八千ニ十一番目のつぶやき
「いかに必要であったとしても、いかに正当な理由があったとしても、戦争が犯罪だということを忘れてはいけない」
(アーネスト・ヘミングウェイ)





2033.12.31(土)P.M.9:00
 日本中に大パニックが発生していた。いや、実際には世界中でDDOS攻撃は発生し、世界はまさに驚天動地の事態に襲われていた。