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ふじもとじゅんいち
ふじもとじゅんいち
novelistID. 63519
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サイバードリーミーホリデイズ

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「これは六十五歳ぐらいの頃かしら」
クリックすると派手な衣装を着て歌いまくる恵理子が現れた。
「おお!これ恵理子さんじゃん!かっけー!しかも完全にハードロックじゃないすか。何かバラードっぽいの勝手に想像してたけど」
「バラードも歌うわよ。そりゃ」
「このバンド名の『killer in killers』ってどういう意味なんですか?」
「ああそれね。旦那が好きなアニメに出てくる殺し屋組織から意味なくつけただけ。ちなみに、このギター弾いてるのがヴィンセント・ロリマーって名前で私の旦那。ジャマイカ系英国人。あんたが今着ている服もヴィンセントが着てたものなんだけどね」
「ふ〜ん。そうなのか。でもかっこいいすね」
「同い年だったんだけど、私が七十二の時に死んだわ。それでバンドも終わり」
 恵理子は二本目のギネスを飲み干し、ロウテーブルの上にグラスを置いた。
「若い頃のはないんすか?」
「さすがに二十代の頃の奴は動画としては残ってないけど、三十代の頃ならあるんじゃないかな。これなんかそうね。と言ってもこれですら五十年近く経ってるわけだけど」
 動画に三十代の恵理子が映し出され、ヴィンセントの悪魔的なギターに乗って、ボリュームのある歌声が部屋に流れ出した。
「若い頃案の定綺麗だったんすねえ。それにまじ気に入りました。カッコいいっス、今度ダウンロードしますよ絶対。いやまじ俺こんな人に拾われたわけっすよね、おもしれー」
 克彦が興奮気味に動画を見やり曲を聞き入っているのを、恵理子はソファーの肘かけに体をあずけながら眺めていた。時間は八時を回ろうとしている。  
 恵理子のヴォーカルがクライマックスに達しようとしたその時だった。突然「Killer in killers」の動画が終了し、勝手にブラウザが切り替わり、どういうわけか二羽のカラスが主人公のアニメ「ヘッケル&ジャッケル」が流れ出した。
「ん……?なに?これ?なんでなんで?」
 恵理子も克彦も何故突然アニメがはじまったのか理解できず顔を見合わすが、恵理子があれこれマウスを操作したところ、一向に反応がない。
 二羽のカラスが、偉そうに威張り散らしているブルドッグを落とし穴に落としたり、いたずらの限りを尽くして、「ぼくたちは世界中どこにだっていたずらしに行くんだぜ」と、そう言い残して空の彼方に飛び去って行くとアニメは終わり、突如意味不明なメッセージが現れ出した。
「誠に申し訳ありませんが、ほんの一時間皆様方のお力をお借りしたい。きっかり一時間で終わります。これからはじまる新しい世界のためにどうかお力添えください」
「どういうこと……?」
 恵理子は相変わらずマウスを動かしたり、エンターキーを叩いたりしているのだがやはり反応がない。「う〜ん、これ何かよく分からないけど、乗っ取られたみたいな感じがする……」
 恵理子は反応しないパソコンに諦め、
「乗っ取る?わたしのパソコンなんて乗っ取ってどうしようっていうの?」
 克彦も異変の正体を探ろうと自分のスマホを取り出し調べてみようとするが、調べるも何も克彦自身のスマホも同じように何も動作せず、同じようにブラウザが勝手に立ち上がり、まるっきり同じメッセージが現れた。
 二人で再度目を合わせ、小首をかしげた。
「テレビつけてみませんか」
 克彦に促されて恵理子はリモコンを手に取りスイッチを入れると、NHKでは紅白歌合戦がはじまったばかり、特に変わった様子はない。が突然臨時ニュースのテロップが流れ出した。
「八時三分現在、何者かの手による大量のパソコン、スマホの乗っ取り事件が発生しています。ハッカー集団の仕業か、現在のところ、目的も規模も何もかも一切不明です。ただ相当大がかりなハッキング事件と思われます」
 そのテロップが流れた瞬間NHK総合からプツリと画面が消えた。何も言わぬ黒い画面。消えた画面の向こう側では、大混乱しているだろうことは薄気味悪く伺い知れた。九十四年を誇る紅白歌合戦史上はじめての、目も当てられぬ、有り得ないような大惨事に襲われたわけであった。
「何か凄いことが起きてるってこと?」
「何なんすかねえこれ……。意味分かんねー……」
「しかし今年はとことん変なことが起こるわね。年寄りにはついて行けないことばかり……飲み直すか」
 恵理子はそうぼやき、冷蔵庫に三本目のギネスビールを取りにいった。
 大晦日の夜、想像を絶する何かが起きていることは確かだった。











Noah-bot 四千六百十八番目のつぶやき 
「他人に楽しみを与える者は
 喜びを受け取ることになる」
(ベンジャミン・フランクリン)


Noah-bot 五千九百五十番目のつぶやき
「幸福な家族は皆似たようなものだが、不幸な家族はそれぞれ独自に不幸である」
(トルストイ「アンナ・カレーニナ」)


Noah-bot 六千八番目のつぶやき
「行動が役立たなくなったら情報を集めなさい。情報が役立たなくなったらひと休みしなさい」
(アーシェラ・K・ル=グウィン)








 暖冬のせいなのか、キャンパスの銀杏並木が十二月半ばを過ぎても、落葉しない樹がまばらに残っている。沢村怜奈は鮮やかに敷き詰められた黄金色の銀杏の葉の絨毯を、心地よい音をたてながら歩いていた。並木道を抜けた所にある歩道脇のベンチで、友人の伊藤紗枝と待ち合わせているのだ。この時間の誘いなのだから、もちろん目的は「久しぶりに一杯やろう」ということなのだが、同時に、ちょっと相談に乗って欲しいという内容のメールが昨夜送られてきていた。
 怜奈はこの大学の情報工学部の三年生になる。ジャマイカ系イギリス人を祖父に持ち、背は百七十センチ、癖のある髪の毛を後ろで束ね、目鼻立ちがはっきりとした顔立ちは、おそらく祖父の面影を残しているということなのだろう。紗枝とは二年前フットサル同好会で知り合い、それ以来互いが互いを親友だと思い合っている仲だ。
 四限の講義を終え、友人と立ち話をしている内に約束の時間が過ぎてしまっていたので少し早歩きになっている。午後四時半の約束だったが十五分程遅れてしまっていた。陽は概ね暮れ、キャンパスにはすでに外灯が灯されていた。底冷えするほどでもないが、空気が適度に冷たくピリピリと肌を刺すのが気持ちよくて、「一番好きな季節♪」と怜奈はつい口ずさんでいる。モスグリーンのダッフルコートのポケットに手を突っ込み、背負ってるリュックサックの脇にはピンクパンサーのフィギュアが揺れている。並木道を抜け、道なりに右に曲がるとすでに紗枝はベンチに座って待っていた。怜奈に気付いた紗枝は手を小さく振り、束の間笑顔を見せる。怜奈も小さく手を振り、紗枝の前まで来ると、紗枝は立ち上がった。
「やあ。待った?」
「やあ。冷えて死にそう」
「ごめんごめん。じゃあもう少し遅れて凍死してもらえばよかったかも。ていうか寒がりだよねえ」
「まあお目当ての店で生き返るから心配ご無用」
「というと?」
「<ばくだん>?」
「もちろん!」
「そんな季節よね〜。この冬、初<ばくだん>!」