③冷酷な夕焼けに溶かされて
「これは、色術を持った者の宿命でもあり、術者である父の血のなせるものでもあります。」
「…色術…。」
私が反復すると、ミシェル様が私の顔を自分の胸に押し付けるようにした。
「色術を持った忍は、目を合わせるだけ…声を聞くだけで心を奪われるそうだ。」
(そんな力が…!)
「だ…だから、銀のマスクを?」
ミシェル様の胸に唇も密着してしまっているので、くぐもった声しか出ない。
「はい。マスクをしておけば、かなり抑制できますから。」
フィンが頷くと、リクがちらりと視線を息子へ流した。
「そろそろ行くぞ。」
「はい。」
そう言葉を交わしながら、二人は音もなく立ち上がる。
「ニコラ。」
ルイーズがそっと近づいて来た。
「私の背に。」
「無用だ。」
ミシェル様が、即断る。
「万が一に備え、ミシェル様は身軽でいるべきです。」
淡々とリクに言われ、ミシェル様が唇を噛んだ。
腕の力がゆるみ、私からミシェル様が離れる。
私は思わずミシェル様の手を左手で掴み、握った。
「ルーナ…。」
ミシェル様もきゅっと握り返してくれた時。
「すぐに宿営に着きますから。そしたら思う存分、可愛がってもらってください。」
フィンが、さらっと告げる。
言われた言葉に恥ずかしくなり、私達はパッと手を離した。
「フィン。おまえ父上達に似てきたな。」
リクはフィンを見つめながら、微かに切れ長の瞳を三日月に細める。
「光栄です。」
ニヤリと不遜に微笑むフィンに、ミシェル様がため息を吐いた。
作品名:③冷酷な夕焼けに溶かされて 作家名:しずか