夕日を見ている美穂と言う女
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明日には群馬での仕事が終わるという日、高木は、冴子に電話をしたが、冴子が出ることはなかった。高木は諦めきれず、時間を見ながら5回ほど電話を入れたが、通じることはなかった。不思議な4人の女性のことは、高木から離れなくなっていた。肌を合わせた冴子には、もう一度でいいから会ってみたかった。感情のない肌の付き合いの中に、高木には冴子の言葉を見つけていたような気がしていた。1人の女性が、体を売る。それには、金を求める事情があるからだ。サイトには既婚者と紹介されていた。それがどれほど信用できるかと言えば、疑ったほうが正解なのだ。既婚者のほうがあとくされがないから、付き合いの度合いが多くなるからだった。サイトにはさくらも多い。プロもいる。そんな中で、冴子は素人で初めての経験ではなかったのかと、高木は感じていたのだ。
ベットに入った時、冴子は、高木の股間に口を運んでくれた。それはビデオで見るような仕草であった。そのぎこちなさに、その一途さに、高木は愛おしささえ感じたのだ。なぜ、これほどに美しいのに、なぜ、これほどに不幸なのだろうかと、高木は冴子を思うのだった。美しさは男を惑わす。高木は家庭の記憶を忘れたかった。妻の記憶を忘れたかった。冴子の肌の感触は、高木が愛した妻の肌のようであった。行為の中の高揚感が、高木からすべてを奪い取っていた。体が離れた時、高木は冴子に声をかけたかったが、冴子は浴室に入ってしまった。
高木は坂東太郎を見ていた。真夏の午後7時。夕日が水面に輝いていた。さざ波が夕日を砕き、ガラスの破片のように見える。
「明日の午後7時に利根川の土手に行きます」
高木の携帯に電話が入り、それだけで電話は切れた。
女性の声であった。
洋食チェン店の制服を着た女性が立っていた。
「夕日を見るのが好きなのです」
「なぜあなたが電話をくれたのですか、電話番号は・・・」
「美しさは遠いから素敵なんです」
高木は4人の女性の素性が初めて分かった気がした。
作品名:夕日を見ている美穂と言う女 作家名:吉葉ひろし