夕日を見ている美穂と言う女
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高木は5年前から妻や子供たちとは別居していた。以前から出張が多いから、家にいられるのは月に5日ほどであったから、淋しさを感じることはなかった。別居の原因は、高木の女遊びからであった。別居して困るのは、欲求不満になることだった。高木は出会い系サイトで知り合った女性と、一夜限りの関係で満たすことが多かった。明日の昼間も、冴子と言うハンドルネームの女性と午前11時に待ち合わせをしていた。前橋駅であった。高木は白い野球帽を目印に被っていた。お互いの携帯番号は分かっていたから、高木は11時5分前に冴子に電話した。
「はい。冴子です」
「守です。白の野球帽を被っています。駅の出口です」
「確認しました。切ります」
冴子は、白い大きな帽子と白のワンピースを着ていた。眩しいほど、高木には美しく見えた。女性経験の豊富な高木であったが、気後れするほどの印象だった。冴子はサングラスをしていた。口紅のピンクの色が、妖艶に感じた。
「食事にしましょう」
「時間がありませんから、ホテルへ」
「そうですか、お金は渡しましょうか」
「そうですか、いただきます」
「2万円でいいですか」
「約束はそうです」
「美しい方ですから、3万円渡しましょう。食事代です」
「それはうれしいです」
そのまま駅前のタクシーに2人は乗った。
人妻なのか、プロなのか、小遣い稼ぎなのかは分からないが、とにかく美人であるから、高木は喜んでいた。
ホテルの部屋に着くと、冴子はすぐに浴室に入った。高木は普通であれば後を追うのだが、彼女の美しさに躊躇った。バスタブを巻いた彼女に、高木はキスをした。
「シャワーを浴びてください」
高木はすでに興奮していた。言われるままに浴室に入ったが、すぐに出てきた。
ベットルームに彼女は横たわっていた。照明は暗く、彼女の顔ははっきりしない。
「電器はつけないで」
「分かりました」
高木の体は冴子の肌に吸い込まれていくように、自分を失い始めた。初めて味わう、喪失の快楽だった。何をされ、なぜ、これほどの快楽が味わえたのだろうか。
髪を整えるドライヤーの音がむなしく高木には聞こえた。
「ここで別れましょう」
「また、会いたいです」
「2度目は感情は入りますから、会えないですわ」
「あなたには既に会っているでしょう」
「そうかしら、さようなら」
冴子は部屋から出て行った。
作品名:夕日を見ている美穂と言う女 作家名:吉葉ひろし