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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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きらら

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キララは家にいるときは、いつも編み物をしていた。1本の糸からセーターを編むのが好きだった。歌の文句にあったように、キララの夫は、キララの手編みのセーターは着ないのだ。色が嫌いとかデザインが嫌だと言う。もちろん店で買えば好きなデザインも色もある。でも、キララは自分の愛情を伝えたいと思うのだ。1枚のセーターを仕上げるのにどれほどの時間がかかるだろうか。途中で目を間違えて、ほぐすこともある。でも、それは辛いことではない。少しでも気に入ってもらいたいと思うからだ。キララの編んだセーターは、3枚ほど出来ていたが、どれも夫は袖を通さなかった。
 キララは編みながら、何故かはわからないが、保坂を思い出していた。白いチョッキが編んでみたくなった。絵を描きに行くときに着てもらおうと思った。3万円のお礼の気持ちもあったのだ。其れだけではないかもしれないと、キララは気づいていた。保坂に会いたい気持ちが湧いていたのだ。たった2度会っただけの保坂に会いたい。無償に会いたい。
 キララは大学受験に失敗した後、そのことが忘れたいために、頭を何度も柱にぶつけたことがあった。陥没性記憶喪失。キララから一部分の記憶がなくなってしまったのだった。
キララは保坂のことが高校時代のことが記憶に戻ってきていたのだろうか。 
 キララは保坂の名刺を持っては、スマホを手にするが、番号を打つことはできなかった。
スマホを置くと、今度は編み棒を手にした。そしてまたスマホを手にする。5月のさわやかな夜風だ。キララは空が見たくなった。空には星にはロマンがある。自分の気持ちを自由にできる。
「保坂せんせ~い」
キララははっきりと思い出したのだ。
作品名:きらら 作家名:吉葉ひろし