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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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きらら

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 3階の校舎の屋上から空を見ている生徒がいた。船戸光恵であった。夏休みも終わり、高校3年生は進学のための模擬テストも始まっていた。光恵はスチュワーデスを目指していた。
そのために英語の学べる大学を目指していた。しかし希望校はD判定が最高であった。
「先生、屋上に誰かいます」
担任の生徒からであった。屋上の出入り口は、事故防止から鍵がかけれれていた。保坂は慌ててその生徒と屋上に向かった。出入り口には鍵がかかっている。
「見間違いだろう」
「船戸さんかもしれません」
「ここ以外に入れないだろう」
教室からの明かりを頼りに屋上を見るが、人影を見つけられない。
「天窓の鍵が開いてます」
見ると、クレセントがかかっていなかった。
「ここから入れるか」
 廊下から2メートルほどの高さがある。
「忍者梯子なら入れます」
「そんなことまでしてなぜ入るんだ」
「分かりません」
 保坂は生徒の分かりませんの言葉に不安を感じた。
「職員室から鍵を持ってくる。お前はここから離れるな」
保坂は駆け足で階段を下りた。下校時間30分ほど前だから、それを見た生徒が
「廊下は静かに歩きましょう」
 と保坂に声をかけた。
 保坂は唇に指を当て、内緒のサインを出した。
 鍵を持ち出すには帳簿に記録が必要で、教頭の許可を得なければならない。
其れには理由もなければならない。もし、生徒が無断で屋上にいたとなれば、生徒指導の問題にまで発展する。職員室にたどり着く前に、保坂は大胆なことを思いついた。用務員室からハンマーを借りたのだ。3階まで戻ると、鍵のあたりのガラスをハンマーでたたき割った。
「鍵はなかったんですか」
「黙っていてくれよ」
 腕が入るほどガラスが割れると、屋上側から、ロックを解除した。
 生徒と2人で屋上に入ると、光恵はあおむけになって夜空を見ていた。
「船戸、お前何をしていたか分かっているか」
「星を見ています」
「のんきなこと言うなよ。規則違反だろう」
「誰もいないから地球に1人って感じになれます」
「どうやって入ったんだよ」
「天窓からこれです」
 縄梯子を見せた。
「女の子だろうが」
「観たいから何でも考えます」
「そんなこと言うのだったらさ、勉強しろよ。先生さ、最高に心配したよ」
「自殺ですか?夢があるからしないです」
「今日は黙っているから、2度とこんなことしないでくれよ」
「心配してくれてありがとう。先生が好きになりました」
「確かに星はきれいだな」
「1月には冬の大三角形が見られます。シリウスは明るいから、先生みたいですよ」
「ありがとう。船戸、ここには谷もいるんだよ」
「谷さんは親友です」
「2人とも志望校目指して頑張ってくれよ」
保坂は2人を帰すとガラスの破片を掃除した。翌日自費でガラスを入れ替えたが、管理職には内緒で済ませた。
 船戸が在校中には大学の合格の報告はなかったが、保坂は卒業後も船戸光恵に連絡を入れたが返事は返ってこなかった。
 保坂はそれから30歳の誕生日を迎えた時に美術教師を退職した。
作品名:きらら 作家名:吉葉ひろし