風鳴り坂の怪 探偵奇談15
「おまえ教師になれるんじゃないか」
「やー無理無理」
そんなことを言って笑う颯馬だが、瑞は半ば本気で思っていた。子ども達に語り掛ける様子は、なんというのか、心を掴む技術を心得ているかのようだったから。
雪の上に、寒椿が鮮やかだ。落ちているその赤い花を幾つか拾い、颯馬が坂へ向かって歩いていく。
「日本中に、そういう神様がいるんだろうな…」
瑞の呟きに、颯馬が振り返る。
「信仰や力を失うことよりも…忘れられる方がつらいのかもな。神様でも」
「そうだね。沓薙の神様達にだって、それぞれに事情があるんだ。あんまり嫌わないであげてね、瑞くん」
「別に嫌ってるわけじゃない…」
天狗がおっかないってだけだ、と瑞は口を尖らせた。
「あの天狗様は…人間がお好きなんだよ。弱くてオロカな人間が、愛おしくてかわいそうで、なんとか正しく生きさせて幸福になってほしいって、そう願っている。それだけ。かわいいでしょ」
かわいいものか、と言いたかったが、その天狗に仕える颯馬にも、きっと様々な感情があるのだろうと思い、瑞は言葉を飲み込んだ。
風鳴り坂をのぼり、雑木林に分け入る。先ほどの叢に隠れていた苔むした石の前に、颯馬がさっき拾った寒椿の花を並べる。赤色が、雪の白によく映える。
「…上等な晴れ着を着て、最期のときを迎えたんだよ。あの真っ赤な着物。晴れ着は、おめでたいときに着るものなのにね」
颯馬はそのまま、しばらく祠の前から動かなかった。じっと。何かを考えているのか、それとも少女のために祈っているのか。その背中に、瑞は初めてこの同級生が背負っているものの重さを知った。神社の子、とこれまでことあるごとに揶揄してきたが、これが颯馬の本質。彼の、使命とも言えるのではないか。
(神様のために、心を配って奔走する…)
それが彼の仕事なのだ。神様の声を聞くことが出来る、颯馬にしか出来ない使命なのだ。
作品名:風鳴り坂の怪 探偵奇談15 作家名:ひなた眞白