風鳴り坂の怪 探偵奇談15
「かぜのなるさか…がんかけそうろう…うしろのしょうめん…あのこはだあれ…」
ゆっくりゆっくり、途切れ途切れに歌われる、その不可思議な歌は続く。
「かぜのなるさか…さいごのよるは…ほこらにおまいり…まんがんじょうじゅ」
ざっとノイズのような音が部屋中に走った。電気が明滅し、そして再び静かになる。
「…あれ、なんだ?いま、俺なんか…喋ってた?」
伊吹がキョトンとして颯馬を見つめている。メッセンジャーとして使われた伊吹の言葉から、颯馬はヒントを得た気がした。
「先輩、大丈夫?気分悪いとかないですか」
「ああ、平気だけど…」
颯馬はほっとする。力を失いかけているとはいえ、彼に憑いたのが神様でよかった。少しぼんやりしているが、大丈夫そうだ。
(忘れられたら…悲しいよなあ…)
あの子は力を失うことよりも、人々に忘れられていくことが寂しくてならないのだ。
「かぜのなるさか、さいごのよるは、ほこらにおまいり、まんがんじょうじゅ…」
なんだその歌、と伊吹が不思議そうにこちらを見てくる。
「祠か、祠があるはずだ…」
神を祀る場所。あの坂にあるはずだ。探さないと。探してやらないと。見つけてやらないと。
「明日の夕方、もう一度風鳴り坂に行ってきます」
「ん、なんか作戦でもあるのか」
「はい」
少女の思いが、颯馬をあの坂へ呼ぶ。
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作品名:風鳴り坂の怪 探偵奇談15 作家名:ひなた眞白