短編集27(過去作品)
とも考えたが、そうではない。じっと自分を見つめていて、なるべく存在を消そうとする。見えていても気にすることもなく、まるで「石ころ」のような存在だ。
影だって自分なのだ。鏡に写った自分も自分なのだ。ではいったい自分は何人いるのだろう? 発想は果てしない。それが分かった時、三橋は作家への道を歩み始めることだろう……。
今日も影を見つめている。見つめている自分が哀れみの目を向けている。自分に向けられるはずの自己犠牲をすべて影が背負ってくれている。おかげで、三橋は人に気を遣うことを嫌悪したままいられるのだ。
いったい、ここはどこなのだろう?
いつまでも見つめていると相手が自分を見つめているのが分かってくる。微笑みかけてくるのが分かると、微笑み返す。そう、鏡の中の世界の自分は、現実の世界の自分の影の部分しか見えていないのだから……。
( 完 )
作品名:短編集27(過去作品) 作家名:森本晃次