短編集27(過去作品)
何か悪いことをしたという記憶はない。自分を見つめる人たちの顔は哀れみに満ちている。だが、その中にほくそえんでいる人を見ることができるのはなぜだろう。穴を覗き込んでいるその顔には見覚えがある。
――あれは私ではないか――
恐怖が一気に空気を凍りつかせる。夢であるなら本当の自分は表から見ている自分のはずだ。きっと夢を見ていて思い出せない夢の多くは、穴の中にいる自分を見て、ほくそえんでいるからだろう。
自分で自分を葬りたいと思ったことが何度もなったに違いない。自殺する勇気もない自分が、夢の中で葬ろうとすることも、禁断なのではないだろうか。
夢の正体を知ることが、自分のトラウマを知ることだと思っていたが、知ってしまったその後は、また同じことの再現のような気がして仕方がない。
夢の中の穴とは棺である。木の棺に折りたたむようにして入れられている。意識はあるのだが、身体が動かない。
「開けてくれ!」
叫んでみても気付かない。どこからか聞こえるピアノの音、この場所に建てられた西洋屋敷でいつも聞こえていた音楽だ。
時代を超越して記憶だけが遡る。よみがえってくる記憶の中で、何が本当なのか必死に考えている。
出会おうとしても出会えなかったミステリーゾーンも、西洋屋敷の前を通ることで、自分が前世の姿に戻っていたのかも知れない。
空き地で遊んでいても、そこは自分たちだけの世界。狭い世界を自分だけで意識しているのだ。
――仮死状態のまま生き埋めにされた――
この記憶は生まれ変わっても抜けない。夢として現れることをトラウマとして感じている。だからこそ、夢の中で二人の自分が存在するのだ。いつもは外から見ている第三者の自分が本当の自分。しかし、トラウマを感じることで、急に主人公の自分へと変わることもある。
もう見ることのない夢、永遠に叫んでいることだろう。
「開けてくれ!」
遠くで声がかすかに聞こえている……。
( 完 )
作品名:短編集27(過去作品) 作家名:森本晃次