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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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夢魔

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 先生は小説を書いているなどと言う私に、まさにとり憑かれた様に全てを捨てる覚悟が無いと大成などできる筈が無いと説いているのだろうか? 私だってそんな事は百も承知である。夢は大事にして行きたいが、家族を秤にかける気にはなれない。第一秤にかけたところで、自分の実力が如何程のものかは自分が一番解っている。私はそんな素人モノ書きの私を揶揄しようとする売れっ子作家に、何処か高慢な自尊心を感じ、少なからず憤りを感じ始めていた。
「これはたとえ話なんかでは無いのですよ。私も十数年前までは単なる作家を目指す普通の人でした。まあ、四十を過ぎても決まった仕事もしていませんでしたから、胸を張って普通であるとは言えませんが。それがあるきっかけで黒い夢魔に取り憑かれましてね、それからなのですよ、小説が売れるようになったのは……」先生は再び自分の頭を指で突付いた。
「私の書く小説は殆どがこいつが見せる悪夢を基に書かれているのです。人が何を怖がるのか、人の醜さとは何なのか。明確なビジョンを使って、又は暗闇の中の気配だけで私を攻撃してくるのです。私も始めの二・三年はノイローゼ気味でしたが、今ではすっかり慣れてしまいました。何しろ所詮夢ですから。それさえ解ってしまえばどうという事は無いのです」
 そして一瞬の躊躇を見せた後、先生はおずおずと私に尋ねた。
「どうです米山さん、私の夢魔を貰って頂く気はありませんかな? 私ももう歳なのであんな小説を書き続けるのは正直しんどいのですよ。こいつ自身も新しい宿主を望んでいる様ですしね。できる事ならば、私はこいつを貴方に引き継いで貰いたいのです」
 私はあまりに突拍子の無い申し出に返す言葉を失っていた。
「誰にでもと言っているのではありません。貴方だからなのですよ」先生は私が唯一二次選考に進んだ作品のあらすじを語った。「米山さん、最初に貴方のお名前を聞いて私はピンと来ました。いつか選考委員として参加した文学賞で、実に美しい文章を書く作家がいました。たしかあれは恋愛小説でしたが。惜しいことにストーリーにリアリティが無い。美しい文章でスラスラと読ませるのですが、読んだ後で心に残るモノが無かったのです。私は惜しいと思いました。こんな書き手だったら自分にとり憑いた夢魔も喜んで移ってくれるだろうと思ったものです。そしてその書き手というのが米山という名前でした」
作品名:夢魔 作家名:郷田三郎(G3)