小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

【完】全能神ゼウスの神

INDEX|9ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

笑顔


虹色の光が広がる中、細くて長い美しい金髪がサラサラとリカの頬にかかる。

「…ヘラ?」

ふるえる声で、リカは首にしがみつく細い体をぐいっと押しやった。

(これは…ヘラなのか?)

(でも、今の声は…。)

困惑して揺れる金の瞳を、澄んだ碧眼が覗き込む。

「…リカ。」

「!」

(ヘラじゃない!)

声が、ヘラよりも若干低く凛としているのだ。

「…めい?」

リカは、その頬に片手を添える。

その瞬間、碧眼が嬉しそうに半月に細められた。

「めいなのか?」

リカは身を起こすと、もう片方の手で、ヘラの頬を包み込む。

ヘラはそのリカの手に自分の手を重ねると、満面の笑顔で頷いた。

明るい、天真爛漫な…ヘラが決してしない表情。

確信したリカは、細い体を力強く抱きしめた。

「めい!」

リカは名前を呼びながら、その首筋に顔を埋める。

オーラの香りも、確かにめいだ。

「やっと、気づいてくれた。」

笑いながら、ヘラ…めいがリカの背中を抱きしめ返す。

「…じゃあ、御祓の泉も?」

リカが驚くと、めいはその頬を膨らませた。

「見た目がヘラ様だから絶対わかってもらえないと思って、心の中でも呼び掛けてるのに全然気づいてくれないんだもん!」

リカは目を細めると、甘えるようにめいの喉元に額をつける。

「…心が…読めなかったんだ。」

そう、今も読めない。

これはゼウスの力が欠けたということなのか…。

するとめいが、事も無げに言った。

「まぁ…ひとつの体に二人の魂が存在してるから仕方ないのかも?」

その言葉に、リカがハッと顔を上げる。

「じゃあ、ヘラもちゃんと…?」

部屋に広がる虹色の光を纏いながら、めいが満面の笑顔で頷いた。

「というより、体が融けてバラバラになろうとしてた私の魂をかき集めて、ヘラ様がご自分の体に入れてくださったの。」

リカの金色の瞳が潤み、掻き抱くように強く抱きしめる。

「…ヘラ…ありがとう…!」

すると、めいとヘラの魂が入れ替わった。

「リカ…よく聞いて。」

リカの滑らかな白い頬を、細い指がなぞる。

「今、私はめいさんのおかげでまだ留まっていられているの。」

「…。」

金色の瞳と、碧眼が間近で絡み合った。

「魔物にオーラを食い尽くされて…本当は消えるべきは私だったの。それを、めいさんのオーラを取り込んでなんとか保ってる状態なの。」

リカの口がぐっと引き結ばれる。

「だから、この器もそう長くないはず。」

ヘラはリカの長めの前髪を、そっと掻き分けた。

「そもそも、フェアリーを入れておける器じゃないし。…だから私が消える前に」

その言葉を遮るように、リカがヘラをきつく抱きしめる。

「…嫌だ…っ姉上!」

初めて聞く、幼げな声色と口調。

掠れてなお絞り出すように、リカはヘラを抱きしめながら首をふった。

「もう…姉上が先に逝くのを見たくないっ!」

リカの目の前で処刑されたヘラ。

涙こそ流さなかったけれど、心の中は激しく血と涙を流していた。

「なんで私は見送るばかりなんだ!」

母親も幼い頃に亡くなり…過去にいた二人のフェアリーも、御祓の泉で霧散した。

「なんで私ひとりが…こんなに力を得てしまうんだ!」

ヘラにすがりつきながら絞り出される言葉は、魂の叫びだった。

初めて言葉にされる、リカの本心。

ヘラはその頭を優しく胸に抱くと、幼い子をあやすように撫でた。

「だから、めいさんが現れたのよ。」

リカはその細い腰に抱きつきながら、ヘラの穏やかな鼓動に目を閉じる。

「あなたの全てを受け入れても、消えない魂。」

確かに、めいの器とオーラの強さはゼウス並みだ。

「だから、私が消える前に、めいさんの体を取り戻さないと!」

今まで弱く儚いと思っていたヘラが、今は力強くリカを叱咤する。

リカは、ヘラを抱きしめる腕の力をゆるめると、ゆっくりと見上げた。

「…でも…どうやったらいいかわかんねー…。」

涙に濡れた金色の瞳が、自信なさげにふせられる。

「魔導師でしょう?」

そんなリカの涙を拭ったヘラの手が、虹色に光った。

「この世界すべての理を識(し)る賢者でしょう?」

ヘラの言葉に、リカがハッとした表情で瞳に光を取り戻す。

「あなたは、全知全能の神でもあり、賢者の長でもあるわ。なんのためにその力を得たの?今、この時にその力を発揮しなくて、いつするの?」

厳しくも暖かいヘラの励ましに、リカの心がどんどん力を取り戻していった。

「…。」

リカは顎に手を添えると、少し考え込む。

そして何かに反応するようにピクリと体をふるわせると、ヘラを再び見た。

「ヘラ。」

先程とは違い、その声にも瞳にも輝きがある。

「ありがと。」

そして、花が開くように華やかな笑顔を溢れさせた。

「!」

人間だった時に、一度だけ見たことがあるその笑顔。

ヘラが処刑台に連行される時、不安でふり返るとリカがこの笑顔を向けてくれた。

それが、最初で最後のリカの満面の笑顔。

ヘラは涙が出そうになったけれど、ぐっと堪える。

リカに、笑顔を遺さなければ。

リカが遺してくれたように、今度こそ自分も笑顔を遺したい。

ヘラは、消えてしまうまで決して笑顔を崩さないと心に決める。

そして、今できる最高の笑顔を返した。
作品名:【完】全能神ゼウスの神 作家名:しずか