【完】全能神ゼウスの神
希望
「あ!ゼウス様!」
ヘラを連れて魔界の森に戻ると、所在なげにウロウロしていたイヴが駆け寄ってきた。
「さっき呼んだだろ。」
「あ、ちゃんと聞こえてました?さっすが♡」
おどけるイヴに、リカは冷笑を向ける。
そんなリカに、イヴは満面の笑顔を返した。
「何かわかったかなーって思って♡」
「ん。」
思いがけず即答してきたリカに、赤い瞳が驚きに見開かれる。
「とりあえず、神殿に戻るよ。」
「あ…ゼウス様。プロビデンスの間、まだ魔道界と繋がったままですけ…ど…」
イヴが言い終わる前に、リカはヘラを連れて姿を消した。
「あーーー!!もう!!!」
イヴは地団駄を踏むと、大きく深呼吸する。
「相変わらずだなぁ!!」
悪態をつきながらも、イヴはどこか嬉しそうだ。
リカが神の国からいなくなっていた時、その存在の大きさと必要性を痛感していたからだ。
そんなリカが戻ってきてくれた…それだけで嬉しくて仕方ない。
つい憧れが過ぎて、イヴはリカについて色々と調べあげていた。
そして、実は『リカ』は愛称で『リカルド』が本名だ、と最近知った。
早く、めいにそのことを知らせたい。
甦っためいに教えてやった時の反応を想像すると、頬が自然と緩んでしまう。
「リカルド様!待ってくださいよ~!!」
イヴは隠しきれない笑顔で、リカの後を追うべく空へ舞い上がった。
イヴがプロビデンスの間に入ると、リカとヘラ、陽とイザークが一斉にふり返る。
「遅っ。」
腕組みして言うリカに、イヴはすかさず言い返した。
「えーっ!?瞬間移動できる人に言われたくないし!」
軽い調子で反撃してくるイヴに、リカは笑いそうになるのを必死で堪える。
「あはは!」
その横で、ヘラが屈託なく笑った。
「…?こんな女だったっけ?」
ヘラを指差しながら、イヴと陽が視線を交わす。
「ああ、これは…めいだな?」
リカはさらりと答えながら、確認するようにヘラの顔を覗き込んだ。
「…は!?」
陽とイヴが思わず、素っ頓狂な声をあげる。
リカはそんな二人とイザークを見つめながら、事の顛末を簡潔に話した。
「…なるほど。」
イザークが顎を撫でながら小さく頷く。
そして、陽と視線を交わし、リカへ向き直った。
「実は、ミカエル様とその可能性について話していたのです。」
リカが微かに驚いた様子で陽を見る。
すると陽がやわらかく微笑みながら、頷いた。
「あなたが神殿を出られた後、もしヘラの器の中にめいがいるのなら、分離は可能か賢者殿に相談したのです。」
その言葉を引き継ぐように、イザークは手に持っていた魔法書を開く。
「ひとつの器に2つの魂が入っている場合の、分離方法です。」
言いながら、開いた項をリカへ向けた。
リカはそれを受け取ると、声に出して読み上げる。
「肉体を失った魂を移す器の準備方法。同じ外見の肉体を用意したいのであればその核となる種とゼウスの体液もしくは体内物が必要。核となる種は魔力を蓄えた物質でなければならず」
そこまで読み上げた後、リカはハッとした様子でポケットからボタンを取り出した。
「…これ。」
それは、めいが消滅した場所でイヴが拾った、魔導師長の証のボタン。
それを見たイザークが顎を撫でながら頷く。
「なるほど。万が一に備えて、それには魔導師長の強大な魔力を貯蓄してあるので核にできそうですね。」
そう、だから魔界の森でめいを陽から助けた時、リカはボタンを返して欲しいと彼女に言ったのだ。
リカはボタンをギュッと握りしめると、小さく呟く。
「私の体液と体内物…。」
その瞬間、何か思い付いたのか、弾かれたようにヘラを片腕で抱き上げそのままプロビデンスの間を飛び出していった。
「ゼウス様!?」
「魔導師長!」
陽とリカが思わず声を上げるけれど、イヴだけは頭をガシガシ掻きながら笑う。
「あんなにあの人が鉄砲玉だなんて、知らなかったなー。」
作品名:【完】全能神ゼウスの神 作家名:しずか