オヤジ達の白球 6~10話
「うるせぃ、ほっとけ。
こうみえても俺は、中学生のときは野球部だ。
万年補欠で、外野の草むしりと、グランドの石拾いが専門だったけどな。
その気になればいまでも身体が覚えているのさ。
グランド整備に関してはな」
「おめえのグランド整備の話が聞きてぇわけじゃねぇ。
女の正体はどうした?。
おめえのグランド整備と、いったいどんな関係が有るんだ?」
「あわてるな。俺の話を最後まで聞け。
今年はよ、公式の審判員たちが呼ばれていた。
去年の試合でチームぐるみの不正があり、乱闘騒ぎになったことが
あるだろう。
その対策として今年は、公認の審判員たちを呼んだそうだ」
「あっ・・・例の乱闘騒ぎか!。
あった、あった。そいつは、おめえのチームじゃねぇか、北海の熊。
球審と審判を脅迫して、自分のチームに有利に進行させたのは。
審判を味方につければ試合はこっちのものだ。
自分のチームの投手が投げる球は、どんな球でもストライクになる。
きわどい走塁も全部セーフになる。
一塁手が落球したのに『アウト』と言われたときには、さすがに
相手側のベンチも、ブチ切れた。
双方のチームが入り乱れて、大乱闘がはじまった。
結局あのときの試合は、没収試合になっちまったはずだ」
「たしかにあった、そんな事が。だがよ、そいつは去年の話だ。
それがいったいどうしたというんだ。
もう、とっくの昔に過ぎた、どうってことのない出来事だ」
北海の熊がくちびるをゆがめて、ぐびりと日本酒を呑み込む。
(9)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 6~10話 作家名:落合順平