オヤジ達の白球 6~10話
「おっとっと。
念のために聞いておくが、ホントに例の女の正体が判明したんだろうな。
お前には昔からそそっかしいところが有る。どうにも油断がならねぇ。
間違いのねぇ情報なんだろうな、今回ばかりは?」
岡崎の鋭い視線が、じろりと坂上の汗ばんだ顔を見上げる。
「間違いなんかあるもんか。この目でしっかり見届けてきたんだ。
なんだよ、同級生のおめえまで疑ってんのかよ、この俺のことを」
「疑ってるわけじゃねぇが、おめえは信用できねぇ。
だがその眼でたしかめたというのなら、どうやら今度はほんもののようだ。
どうだ。もう一杯ビールを飲むか。何杯でもおごってやるぜ。
おめえの話が、本物だと言うのなら」
岡崎に呼応するように、男たちが奥のテーブルへ集まって来る。
「俺もおごってやるぜ。その話が本当なら」
坂上の耳元へ、男のひとりがつぶやく。
飲んべェたちが、ぐるりと坂上と岡崎を取り囲む。
「俺も乗ってもいいぞ、その話に。
坂上は嘘はつかねぇ男だが、ほんとのことも言わねぇ男だ。
世間じゃ千に3つホントのことを言えば、千3つと呼ぶが、そいつの場合、
出まかせばかりの万空ばかりを言う男だ。
その話が事実ならお前さんのビール代を一ヶ月分、俺が
払ってやってもいいぞ」
カウンターから人相の悪い男が声をかける。
「北海のひげ熊」と呼ばれている男だ。しかし喧嘩早いことから周りからは
「北海のがらっぱち」と呼ばれている。
(8)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 6~10話 作家名:落合順平