オヤジ達の白球 6~10話
「南風が溜息さえつかなければ、たんぽぽは飛ばなかったのか。
この世に生きて、たった一ヶ月で風に飛ばされて、あてのない旅に出るとは、
苦労な生き方をしているんだねぇ、おまえさんたちも」
背後から女の声が聞こえてきた。祐介があわててうしろを振り返る。
ジャージ姿の陽子が、そこに立っている。
「なんだよ。誰かと思えば陽子じゃねぇか。いきなり登場するな。
居るなら居るで、声をかけてくれたらいいだろう。
突然すぎてびっくりしたぜ」
「あたしだってびっくりしたわ。
知り合いの男がタンポポにむかって、ぶつぶつ独り言を言っているんだもの。
ついにボケがきたかと、心配したわ」
「ぼけたわけじゃねぇ。
久しぶりの散歩で、快活になってきた。
うかれついでにこれから旅に出るタンポポに、語りかけていただけだ」
「ふぅ~ん。あんたの好みは白髪の老女か。なるほどね」
(どうりで私のことなんか、振りむかないはずだ・・・)
ふん、趣味のわるい男だ、と陽子が鼻を鳴らす。
(何か言ったか?)陽子を見上げる祐介のあしもとで、何かがうごめいた。
つぎの瞬間。足首にがぶりと子犬が噛みついてきた。
「あっ・・・何をするんだ、いきなり・・・こいつはお前の犬か、陽子!」
「こら!。やめなさい。ゆうすけ。
この人は危険な人じゃないの。
病み上がりの白髪が好きなわたしの同級生です。
大丈夫だから、その口を離しなさい」
「ゆうすけ?。こいつの名前は、ゆうすけというのか!」
「あんたは漢字の祐介。この子はひらがなのゆうすけ。
別に何の問題もないでしょ」
「じゃ・・・
家で待っている最愛のパートナーというのは、こいつのことか!」
「そうよ。この子のことよ。
あんたと違ってこの子は、わたしの言うことなら何でも聞くわ。
こら。敵じゃないんだから、いいかげんその口を離しなさい、ゆうすけ。
噛まれている祐介が可哀想じゃないの。うっふっふ」
(7)
へつづく
作品名:オヤジ達の白球 6~10話 作家名:落合順平