オヤジ達の白球 6~10話
坂上を囲んだ男たちの口から、なんともいえないため息が漏れる。
想定外の事実だ。
ふらりとあらわれる女から、健康的なスポーツの匂いは感じない。
むしろ。どこか暗い影さえ漂っている。
女のイメージと、公式審判員をしている姿がすぐには結びつかない。
「・・・で、どうした、そのあとは?」
熱燗を握りしめた北海の熊が、じりっと坂上へ詰め寄る。
「そのあと?。
そのあとも何も、あとは普通に、ソフトの試合をしただけだ。
あの女も球審したり、3塁の塁審なんかをしていたぜ」
「バカやろう。試合の事なんか聞いてねぇ。
謎の美人の公式審判員が、どこに住んでいるのか、どんな
仕事をしているのか、未婚なのか、バツイチの子持ちなのか、
そういうことを俺たちは知りたいんだ。
そのあたりの情報はいったいどうなっているんだ?」
「何言ってんだ。知るわけがないだろう、そんな個人なことなんか。
親睦ソフトの大会にやって来た公式審判員のひとりが、例の女だったと
いう事実だけだ。
悪いか。それ以上の情報を拾ってこないで?」
「やっぱりな」。あきらめの色が、男たちのあいだにひろがっていく。
「肝心なことがちっともわかっていねぇ。こいつに期待した俺たちが
馬鹿だったぜ」
男たちがいっせいに坂上から離れていく。
熱燗をぶら下げた北海の熊も、「使えねぇな。救いようのない阿呆だ、
この男は」カウンターの定位置へ戻っていく。
「な・・・なんだよ。
みんなしていきなり、手のひらを反すようにいっせいに解散しやがって。
まるで俺が、何か失態をしでかしたみたいじゃねぇか」
作品名:オヤジ達の白球 6~10話 作家名:落合順平