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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「こう言っちゃなんですけど、本人もちょっと頼りない雰囲気でしたよね。3佐の割に」
「まあな……」
「そうだ、吉谷さん。空幕で何か噂でも聞いてないですか? 武内3佐って人なんですけど」
 小声になった銀縁眼鏡に、吉谷は腕を組んで思案顔になった。
「うーん、私は聞いたことないけど、周囲を当たれば何か出てくるかも。そのヒトの元上官って人が同じ部の中にいるかもしれないし」
「よろしくお願いします」
 軽く会釈するキャリア官僚に、半年ほど前に航空幕僚監部へ引き抜かれたベテラン職員は、艶やかな笑みを返した。いかにも水面下で動くのが得意そうな二人に、松永は苦笑した。
「あなたたちを敵に回したらヒドイ目に遭いそうだな。取りあえず、奴も明日から出てくるし、しばらく様子見でいくよ。不安材料はあるが、悪い人間じゃないのは確かだ」
「どこかの副長の従兄のように、無意味に強気な御仁よりは、ずっとマシでしょう」
 高峰の言葉に、松永と宮崎は乾いた笑い声を立てた。

 建物入り口に向かって歩き出す彼らの背中を、吉谷は立ち止まったまま鋭く見やった。そして、三人の後を追おうとした美紗を引き留めた。何かをうかがうような視線が、美紗に絡みついた。
「こういうこと言うの、良くないのかもしれないけど……」
「何の、お話ですか?」
 春の陽ざしに溢れているはずの空間が、急にひんやりと感じられる。
「事業企画課の八嶋さん、明日付けで5部に異動なんだってね」
「……よく、ご存じですね」
「この間、メグさんが愚痴ってたのよ。嫌な奴が同じフロアに来ることになったって。5部の専門官ポストが空いたら美紗ちゃんが一番に推されると思ってたのに、どうして八嶋さんなんだろ」
「八嶋さんは、……私よりずっと語学できますし、情報局の勤務も長いですから」
 予想とは違う話題に、美紗は思わず頬を緩めてしまった。吉谷はそれを自嘲めいた笑みと受け取ったようだった。
「専門官の仕事って、語学ができりゃいいってもんじゃないわよ。年功序列なんて今時あり得ないし。5部の人たちだって、今までほとんど接点のなかった人より、美紗ちゃんに来てほしいと思ってたんじゃないかしら」