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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「本人は幕(幕僚監部)勤務の経験なし、家族はこれまで沖縄から出たこともない、というんでは、いろんな意味で東京のペースに慣れるまでに時間がかかるかもしれんですなあ。松永2佐のご判断は正解でしょう。国際情勢が静かなうちに、家庭内の懸案事項を少しでも片付けてもらいませんと」
 淡々と語る高峰に、松永は憂鬱そうな溜息を返した。そして、不安げに二人の会話を聞いていた美紗に、決まりの悪そうな笑みを向けた。
「今回の件では鈴置に助けられたな。俺が奴に『三月いっぱい来なくていい』って言った時はすっかり気まずい空気になっちまって、どうしようかと思ったが……。ああいう時に『女性の視点』ってのが活きるんかな」

 二日分の欠勤の後、再び職場に出て来た途端に「自宅待機」を言い渡された3等空佐は、はた目にも分かるほど気落ちしていた。彼に恐る恐る声をかけたのは、「直轄ジマ」で最も若い美紗だった。
 遠方への転勤、故郷から出たことのない妻、幼い子供たち……。気の毒な新入り幹部の置かれた状況は、いつもの店で日垣が水割りを片手に語っていた昔話を思い出させた。美紗は、「以前にいた職場で耳にした話」として、夫の転勤のために慣れない環境で子育てをする女の気苦労を、場合によってはそれが家族を引き裂く原因になってしまうことを、遠慮がちに話した。大人しそうな3等空佐は、未婚の女性職員の話に真剣に耳を傾けた。そして、納得して松永の指示を受け入れたようだった。

「うちのカミさんは心身ともに頑強なタイプだし、俺の周囲にも『カミさんがうつっぽい』なんて言う人間はいなかったから、正直なところ、今回はどう対処したらいいか分からなくってな。鈴置が言ってた『カミさんがうつ病』って人は、陸の奴なのか?」
 何気ない問いに、美紗はギクリと固まった。
「あ、その……」
「あなたが統合情報局に来る前の職場、って言ったら業務支援隊だよな、陸自の」
「でも、人から聞いた話なので、本人が陸の方かどうかは……」
「そうか。ま、詮索することじゃないよな。それより、片桐の後任をよろしくな。あいつより十以上トシ食った3佐じゃ、ちとやりづらいかもしれんが」
 松永は己の不安を振り払おうとするかのように、青空を仰いで大きく伸びをした。その背後で、内局部員の宮崎が銀縁眼鏡をギラリと光らせた。