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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「私は、まだ専門官のレベルにはほど遠いですから」
「それは八嶋さんも同じ。これから専門教育を受けて経験を積んでいくんだから。あんのイガグリ頭、美紗ちゃんを手放したくなくて人事調整が来たのを握りつぶしたんじゃ……」
「それはないです。絶対」
 やや泥臭い推測を、美紗は慌てて否定した。それでも、吉谷は形の良い唇を不機嫌そうに尖らせた。
「もしかして八嶋さん、5部に直接『売り込み』にでも行ったのかな。あの子、いつもオイシイ話を探して辺りを嗅ぎ回ってる感じだもんね」
「さあ……」
 適当な相槌を打ちながら、美紗は心の中で震えた。かつて統合情報局の主と言われた大先輩は、ほとんど言葉を交わす機会もなかった八嶋の気質を正確に見抜いている。彼女の目に、大きな秘密を抱える気弱な女の胸の内は、どこまで露になっているのか――。
 思わず一歩後ずさる美紗に構わず、吉谷はセミロングの艶やかな髪をかき上げてしゃべり続けた。
「それにしても、人事の話に1部長がノータッチなんてあり得ないと思うんだけど。日垣1佐、5部の専門官ポストの話が出た時、美紗ちゃんを推そうとは思わなかったのかしら。彼も意外と人を見る目ないのね」
「私は、今のままでいいんです」
「人事なんて運に左右されることばかりだから、あまり気落ちしないで。美紗ちゃんに合うポストは情報局の外にもたくさんあるし、今の処遇に不満だったら、希望出して情報局を抜けるのも一つのテよ」
 百戦錬磨の大先輩に、美紗は小さな声で応えた。
「別に、不満に思うことはないです。今のお仕事が、……好きなので」
「そうなの? それなら、いいけど……」
 澄み渡る青空とは対照的な薄暗い笑顔を、吉谷は不思議そうに見つめた。