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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「あの二人、何か仲良くない? メグさんタメ口になってるし」
「そういえば、そうですね」
 あっけに取られる吉谷に、美紗は「直轄ジマ」の送別会をめぐる一連の経緯を話した。
「メグさん、日垣1佐の隣に座れたって喜んでたけど、実は海の小僧の策略にハマっちゃってたのか」
「なかなか侮れん『小僧』でしょう」
 高峰が口ひげに手をやりながら、楽しそうにほくそ笑んだ。正帽を被った彼は、3等陸佐の階級を付けているにも関わらず、口ひげのせいで将官のような風格を漂わせていた。
「すっとぼけた物言いで、いつの間にか人の心に入り込んでくる。それを地でやれるんだから、大したもんだ」
「根はいい人なんですよね?」
 独身の後輩を心配する吉谷に、高峰は「どうだろうねえ」とすまし顔で応えた。
「落ち着きはないし、CS(海自の指揮幕僚課程)出た割にはイマイチ出世しなさそうだしなあ。強いて言うなら、表裏がないのが取り柄ってところかね。若い連中には慕われるタイプだと日垣1佐は言っとったかな。次の1部長が彼をどう評するかは分からんけども」
「西野1佐は、小坂のような奴は特に可愛がると思いますね。本人が騒々しいですから」
 松永の微妙なコメントに、年上の部下は「そりゃエラいことですなあ」と楽しそうに笑った。しかし、松永のほうはふと浮かぬ顔になった。
「どちらかというと、片桐の後任のほうが心配です」
 片桐1等空尉の後釜は、松永とほとんど年の変わらない3等空佐だった。片桐と同じ発令日付で遠方から異動してきた彼は、発令日の翌日に「直轄ジマ」に顔を出したが、次の日から土日を挟んで二日間、幼子二人を抱えた妻の具合が悪いと言って欠勤した。
 長距離の移動を要する人事異動では、指揮官職に就く者以外は、着任までに一定の猶予期間が与えられている。しかし現実には、引っ越しなどの諸作業が終わり次第、異動者は速やかに新しい職場で業務をスタートさせるのが常だ。
 件の3等空佐も慣例に習うはずだったが、不運にしてその意気込みは初っ端からつまずく格好になった。市ヶ谷勤務が初めてという部下の様子に不安を感じた班長の松永は、日垣と相談の上、異動完了日となる四月一日まで彼を自宅待機扱いとすることに決めた。