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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「ああ、もうきっとフラれたあ。人生最大のチャンスだったのに……」
「アタシたちは呼ばれてナンボのお仕事。非常呼集でデートをドタキャンなんて、日常茶飯事でしょ?」
 宮崎は銀縁眼鏡を外すと、目を鋭く細め、うちしおれる小坂をじっと見据えた。裏返っていた声が、急に低くなる。
「そんな理由で離れていくような女は、初めから自衛官と付き合える器じゃないと思うね。そういうのは、小坂3佐のほうから願い下げにすべきだよ」
「でも……」
「ま、今回のコトは、いい試金石になるんじゃない?」
「はあ……」
 ずんぐり体形の3等海佐が力なく溜息をついた時、電子ロックが解除される音がした。ドアを勢いよく開けて現れたのは、N国マターを担当する3等空佐ではなく、紙袋を抱えた豊満ボディだった。
「どーもお、お疲れ様でーす」
「あれっ、めぐ……、大須賀さん!」
 小坂は途端に丸顔いっぱいの笑みを浮かべると、跳びはねるように立ち上がった。
「今、何かド修羅場中?」
「ううんっ、ぜぇんぜんノープロブレム! 大須賀さんこそどしたの? あの後、そっちにも呼び出し来たんだ?」
「私のトコには特に何も。今日は差し入れ持ってきたのよん。休日出勤で今頃お疲れかな~って思ったから」
 休日も濃厚メイクでばっちりと決めた大須賀は、紙袋から大きな箱を取り出し、小坂の机の端に置いた。ふたを開けると、こってりとしたバターとチョコレートの甘い匂いが広がった。
「マフィン焼いて来たんだけど、甘いの嫌い?」
「俺、甘いの大好きっ!」
「お前ダイエットしてたんじゃないのか……」
 あっけにとられる一同の前で、小坂は箱の中身を覗き、子供のように手をバタつかせた。