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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「あなたは大丈夫じゃないかねえ。西野1佐には早速気に入られたみたいだから」
 高峰が口ひげをいじりながら小さく笑うと、豊満ボディの女性事務官は血相を変えて後ずさった。
「それは、……困ります!」
「オレだって困るよ。やっとライバルがいなくなったのに!」
 小坂は手にしていた回覧書類をぐしゃりと握りつぶした。「直轄ジマ」のベテラン勢は、怪訝そうに彼を見やり、やがてゲラゲラと笑い出した。
「ライバルって、日垣1佐のこと言ってんのか」
「あのお人と同列に並ぼうとは、厚かましいにもほどがある」
「これでも、昼休みに走って五キロ減量に成功したんですよ。この三か月の努力を経てやっとチャンス到来ってとこで、あの『ヒグマ』にちょっかい出されてたまるか……」
 小坂の声がやや大きくなるのと同時に、再び第1部長室のドアが叩きつけられるような勢いで開いた。西野が巨体を揺らして部屋から出て来た。
「じゃ、俺ちょっと局長んトコ行ってくっけど、……日垣のライバルのヒグマって何だあ?」
 鋭くいかつい目が松永を見、そして顔面蒼白になる3等海佐のほうに向けられる。
「あっ、いやっ、自分もっ、調整行ってきますっ!」
 小坂は、椅子を跳ね飛ばさんばかりに立ち上がると、手ぶらのままドタバタとどこかへ走り去ってしまった。場に残された一同は、一様に背を丸め、ヒグマの第1部長を伺い見た。
「あいつ、小坂っつったか? 何か落ち着かねー奴だな。海の人間はもうちっと静かなんかと思っとったが」
「彼は海自始まって以来の変わり者です。私の指導が至りませんで、申し訳ありません」
 小坂と同じ制服を着る佐伯がしおれるように頭を下げると、西野は面白そうにほくそ笑んだ。
「ちゃんと仕事が回ってんなら別に構わねーよ。しかし、日垣も前に言っとったが、ここの壁ホント薄いな。お前らの話し声、俺んトコに結構筒抜けだぞ」