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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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「まあ、ええわ。俺もなるべく小さな声で喋るようにすっから、そんなに縮こまらんでくれ」
 そう言う傍から、第1部長は野太い声で豪快に笑った。しかし、美紗の隣で唖然と立ち尽くす大須賀の豊満な胸元が目に入ると、口を大きく開けたまま、金縛りにあったかのように固まった。厳めしい光を放っていた目が、にわかに狼狽の色を帯びる。
「あーっと、そ、そちらは、どちらさん?」
「は、8部のっ、大須賀事務官ですっ」
 大須賀は大きく身震いした。ボリュームのある胸が音を立てそうなほど大きく揺れる。そのたわわなラインから無理やり視線を外した1等陸佐は、大仰な咳ばらいをすると、かかとを合わせて直立不動になった。
「こりゃあどうも。本日、統合情報局第1部長を拝命いたしました、西野1佐です。以後よろしくっ!」
 
 西野が上機嫌で個室に戻っていくと、「直轄ジマ」の一同はへなへなと脱力した。
「……ずいぶんテンション高い『ヒグマ』ですね」
「あれでも根はいい『ヒグマ』だ。有能な指揮官なのは俺が保証する。日垣1佐とは防大時代の同期で、今も仲いいみたいだしな」
 仏頂面で肩をすくめる松永に、小坂は丸顔を勢いよく横に振った。
「信じれん……。あのヒトと日垣1佐、思いっきり真逆じゃないですか」
「それは否定しない。西野1佐はせっかちで激しやすいほうだし……。まあ、分かりやすくて、やり易いっちゃあやり易いだろ? すぐ慣れる」
「絶対無理。ああいうヒト、海にはまずいませんもん。空もそうでしょ?」
 急に話を振られた武内は、困ったような笑みを浮かべ、あいまいに頷いた。宮崎に「3佐の割に頼りない雰囲気」と評されていた彼は、目立たない背格好がそう見せるのか、それとも慣れない市ヶ谷勤務に緊張しているせいなのか、いささか緩慢な印象を与える人間だった。同じ温厚そうな物腰でも、同期トップを走る実力と実績に裏打ちされた自信を滲ませる日垣貴仁とは、何かが違う。
 一瞬生じた間を、大須賀が大きなため息で埋めた。
「アタシもここに勤めて十年近くなりますけど、ああいう『ヒグマ感』って、やっぱ陸自のヒトだけですよね。私も何か報告事項があったら、あのヒグマのトコに指導受けに行くのかあ。やだなあ……」