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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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 しかし、陸の二人は粗野な人種に慣れているのか、顔色一つ変えず、のしのしと歩み寄る深緑色の制服をじっと見据えた。名を呼び捨てにされた松永が静かに立ち上がる。
「ちょっとスケジュール調整頼まれてくれんか? これから局長のトコ入らんといかんくなった。2部との会議は午後のどっかにしてもらえると……」
「了解です」
「あ、それから」
 松永から美紗に視線を移した巨漢の第1部長は、書類が挟まれたバインダーを数個突き出した。高峰がそれらを素早く受け取り、ぎこちなく腰を上げた美紗に手渡す。
「それ全部見終わってサインしといたから、それぞれ担当の部に戻して欲しいんだが、そういうのは、アンタに頼んでいいんかな?」
「は、はい……」
 美紗はバインダーを握りしめ、完全に逃げ腰になった。見た目も口のきき方も相当に荒々しい新任の上官は、どうにも怖い。そんな心の内を見透かしたかのように、第1部長は強面の顔に無理やり笑顔を作った。
「俺さ、よく見た目が怖えとかガラ悪いとか言われんだけど、全然そんなことねーからな。全く、どこがどう怖いんだよ、なあ?」
「ご自覚なかったとは驚きです」
 松永がニコリともせずに茶々を入れると、元レンジャーの上官は、食ってかかりそうな勢いで「何ぃ!」と喚いた。佐伯が思わず腰を浮かせたが、当の松永は面倒くさそうに彼をいなした。高峰も、口ひげに手をやったまま、ヒグマとイガグリ頭の騒々しいやり取りを面白そうに眺めている。
「うちのシマは、声の大きい人間には慣れていないんですよ。高峰以外は皆、前任の部長の時にここに来た者ばかりですから」
「前任って日垣か。あいつはいかにも優男だもんな。あんなんと比べられてたまるかっての」
 フンと鼻を鳴らす1等陸佐に、美紗はビクリと黒髪を揺らした。これから第1部を束ねることになる彼は、「色」が違うにも関わらず、日垣貴仁と何がしかの繋がりを持っているのか……。