黄泉明りの落し子 三人の愚者【後編】
神父と、彼に支えられていたならず者は共に立ち止まった。
二人とも、息も絶え絶えであったが、ルヴェンは呼吸を整えながら、彼をそっと木の幹にもたれかからせる。
「お待ちを……肩の傷については、動脈は無事のようです。ですが、問題は腿です」
ルヴェンは、自らの黒い法衣の裾を、一気に破いた。
即席の包帯を作りあげると、出血したニコールの大腿部に手早く、強く巻きつける。ならず者は苦痛に顔をゆがめていたが、もはや悪態はつかなかった。
「ニコールさん」
ルヴェンが、おずおずと口を切った。
「取り急ぎの止血は行いました。ですが……既に出血量が――」
「あんたが何故死のうとしてたかは知らないが……」
ニコールは言葉を被せる。
苦しげな呼吸。
ヒューヒューと、喘鳴が止まなかった。
「改めて例を言うよ。それから……すまなかった。あんたには、辛くあたっちまったな」
「そんな……気にすることはないのです。私は結局力及ばず、そして死すべき罪人で――……」
答えかけたルヴェンはそこで、押し黙った。
「あんたが罪人かどうかなんてのは、俺には知ったことじゃねえ」
ニコールが言葉を継いだ。
「俺は神なんてのは嫌いだからよ。けどハッキリ言う。あんたは本当……いい奴だよ」
このならず者が、初めて浮べた笑顔だった。
ルヴェンは、眼を見開いた。
作品名:黄泉明りの落し子 三人の愚者【後編】 作家名:炬善(ごぜん)