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自我納得の人生

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 しかし、姉の話を聞いていると、母も姉も兄も、それぞれ別々に考えてはいけないように思えた。
――家族として――
 という発想ではなく、
――同じ人間の中に入ることができる相手――
 として感じることができるということだった。ここまで聞いてきても、姉が自分の中に入ったことがあるなど、信じられない。今信じられないのだから、今後もきっと信じられないだろう。
 ただ、納得の行くことは少なくない。そう思うと、誠は姉を正面から見つめることができると思うのだった。
「どうして、お姉さんは僕の前に現れたの?」
「私は、あなたの前に現れるつもりは、最初からなかったの。お母さんやあなたのお兄さんには、私が死に切れないこととの関係があるので、何度か会ってみたんだけど、やっぱり私は、そのまま死に切れなかった。でも、あなたは違う。あなたはいろいろ苦しみながらでも、自分の人生を生きてきた。きっと私とは関係のない人間だと思ってきたのよ」
「それがどうして?」
「あなたの性格が私とよく似ていると思ったからなの。私派は、あなたが生まれてからすぐに死んだので、性格があることが不思議なんでしょうけど、性格にはもって生まれたものもあるのよ。確かにあなたたちの世界の人から影響は受けていないんだけど、でも、ここから人の性格は、あなたたちには見えない角度から見ることはできるのよ。だから、自分の性格を顧みることはできるというわけなの」
 一呼吸おいて、姉さんはさらに続けた。姉は話をする間、最初は一呼吸置くことなく話していたが、今は一呼吸置くようになっていた。それは、自分のペースを保つためなのか、それとも本当に一呼吸置かないと、自分が苦しいのか、誠は考えていたが、どうやら、その両方ではないかと思えてきた。
「似ている性格というのは、あなたも私も、納得の行かないことは信じられないということなの。あなたも、人が何を言っても、自分で納得いかないことは、絶対に信じられないでしょう? 私もそうなのよ。だから、死に切れないのかも知れないと思うの」
 納得がいかないことを信じられないという人は少なくないだろうと、前から思っていたが、自分ほど極端な人はいないと感じ始めたのは、家族全体のことを考え始めてからだった。
 小学生の頃から思っていたはずのことを、今さらながらに感じるようになるなんて、その頃は思ってもみなかった。
「納得いかないことを、私はタブーとして今まで守ってきたの。それが、ここの吊り橋だったり、断崖絶壁だったり、この洞窟だったりするの。そのところどころに、タブーを設けて、私は家族との思いをこの場所で納得いかせようと思っていたのかも知れないわね」
 姉は、自分で話しながら納得していた。
 誠は、ハッキリとした納得とまではいかないが、もし自分がここで納得すれば、姉は死に切ることができるのではないかと思っていた。
 死に対して、今まで深く考えたことのなかった誠だった。重たいことに対して深く考えてしまうと、堂々巡りを繰り返してしまい、結論が得られないと思ったからだ。
 得られない結論に対して、納得などできるはずもない。それは当然のことであった。だが、ここで姉と話をしていると、納得できるように感じられてくるから不思議だった。
 本当であれば、吊り橋での出来事から始まって、死んだはずの姉と話ができたり、兄の死について知ることができたりするなど、信じられることではない。それでも、話を聞いて納得できることがあると、誠は信じられないことであっても、信じられる気がしてくるから不思議だった。
 そこまで考えてくると、自分が生きていることを不思議にすら感じられた。
――姉が今さら現れたのは、何を自分に言いたいからなのだろうか?
 今まで姉は、母や兄に何度か会っていると言っていた。自分が死に切れないことと関係があると言っていたが、兄が病院で取り違えられたことを、母は知らないような話をしていたが、それは本当なのだろうか? 姉が死んだことで、母は丈夫な子がほしいという願望を抱いていて、小さかった生まれた子供に対して、心配や憂いの気持ちがあったに違いない。
 そこへ、父の不倫相手が、丈夫な子供と取り違えてくれた。知っていて、黙っていたのかも知れない。
「お母さんが、僕に打ち明けてくれたのは、自分の中で黙っておけなくなったのが原因かも知れない。良心の呵責に苛まれたからなのかな?」
「半分は、それもあると思うの。でも、もう半分は、あなたの中に、私を見たのかも知れないわね。実際に私が会いに行っても、お母さんは信じてくれない。でも、あなたは実際に生きているのだから、話ができると思ったのでしょうね。ひょっとしたら、あなたが、私の生まれ変わりのように感じたんじゃないかしら」
 母が、姉の話を絶対にしようとはしなかった。それは、生まれ変わりの相手に、話をしてしまって、「タブー」を破ることになるかも知れないと思ったに違いない。きっと、母の中には自分なりのタブーが存在していたのだろう。
 誠は、姉の姿を見ていると、次第に自分も同じ目線に立っているのを感じた。
 今まで兄に対して見上げるだけしかなかったのに、同じ目線で話のできることがどれほど安心感を与えられるか、教えられたのだ。
 安心感は、自分を納得させる。姉の表情を見ていると、すべてが分かってくるのではないかと思えてくる。
「誠、ありがとう」
 そう言って、姉は洞窟から、光を放って消えて行った……。

 誠は自分が生きてきたことに対して、納得できていない。そのことが妄想に繋がっている。それでも死にたいと思わないのは、死ぬことに対しても納得がいかない。その思いを察して、姉が現れたのだろう。
――生きることもできない。死ぬこともできない。これではまるで姉のようではないか――
 誰か誠と同じような考えを持った人がここを訪れてくれるのを待つしかないというのだろうか。
 今いる世界、姉がいなくなった世界で、今度は何に納得しながら、生きていくことになるのだろう。誠は、また考え続けるのだった……。

                 (  完  )




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作品名:自我納得の人生 作家名:森本晃次