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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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knuckleheads

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 それが意味することは分かったが、仕事が大詰めを迎えているときに世話に追われるのは、正直骨が折れる。おれは中山を見つけないといけない。
「ちょっと出かけるわ。鍵はポストな」
 めぐみはうなずいた。おれはカローラGTに乗り込んで、白河の持ち物らしいセメント工場の近くを走らせた。前野の情報では、ほぼ毎日様子を見に来るとのこと。簡単に見つかった。べたべたに車高を落としたマジェスタ。砂利敷のところから出てしばらく走ったところで一度降りると、中山は車体の底を覗き込んだ。おれはヘッドライトを消してマジェスタの後ろにカローラGTを停めた。ドアを閉める音で、中山が気づいた。
「車高低い車は難儀するな」
 おれが言うと、中山は作り笑いを浮かべたまま、ゆっくりと体を起こした。
「あ……、自分はもう……」
「自分は~て、なんやねん。人殺して吹きまくって、遺族の気持ち考えたことあんのかお前」
 おれが近寄ると、同じ分だけ後ずさる。大き目の石に躓いて尻餅をついた中山に、言った。
「ちょっと、電話出れるようにしといてくれへん? ここ二週間ぐらい。それだけ言いに来てん。内緒な」
「は、はい」
 おれは中山の番号を控えた。家に戻ると、めぐみはまだいた。漫画は読み終えたらしく、問題集の巻末についている確認テストを終えたところだった。
「見て、やばない?」
 国語で七十点。おれは思わず拍手した。
「すごいな。やるやん」
「カンニングとかしてへんから」
「別に疑ってへんがな」
 おれはそう言って、台所の棚からカップラーメンを取り出した。時計は午後八時を指している。
「メシどないすんの?」
「えー、どないしよ」
「送っていくから、ハンバーガー行くか」
「行く」
 めぐみはそそくさと準備を済ませると、立ち上がった。思い出したように、問題集を指差した。
「なあ、良くん。教科書とか漫画って、間違うこともあるん?」
「どうやろな。まああるかも知らんけど、確率は相当低いで」
 めぐみは学校の鞄を肩にかけると、言った。
「漫画にさ、運命の赤い糸って出てきて。あれ、正解は紐やんな?」
 おれは靴を履きかけたまま凍りついた。振り返ると、めぐみはぽかんと口を開けたまま少し後ずさった。
「どうしたん?」
「いや、忘れもんしたかなって」
 カローラGTのハンドルからシフトノブ、座席の質感まで、何もかも違和感だらけだった。ハンバーガーをこっそりと食べるめぐみに、おれは言った。
「紐ちゃうで」
「そうなん?」
「糸が正解やな。誰かがゆうてたん?」
「誰やろ。お父さんの友達かな。正月によう来ててん。糸なんや~、ショック」
 めぐみは恥ずかしそうに顔を伏せた。おれは筒元の家までたどり着いたあと、ぐるりと一周して、めぐみをコンビニで下ろした。
「ちょっと時間潰しといて」
 再び筒元家の玄関にたどり着いて、呼び鈴を鳴らす。筒元の親父が現れた。何かを言う前におれは頭突きを入れた。胸倉を掴んで外に引きずり出し、ヘッドロックをかけた。
「おれがガキやったとき、店に強盗入ったんは、お前か?」
 不自由な体勢で足をばたつかせながら、筒元の親父は体をひねろうとした。おれはさらに力を込めて、車まで引きずった。助手席に力ずくで押し込んで、運転席に座る。
「誰がやったんや、正直に言え」
 鼻血をだらだらと流しながら、筒元はおれの方を向いた。
「……なんの話をしとるんや」
「うちの家に入った強盗は、あんたの知り合いらしいな」
 筒元はしばらく黙っていたが、おれの目をみて、ちゃんと発言に根拠があるということを悟ったのか、居住まいを正した。おれは続けた。
「強盗に入られたとき、おれは二人組がしゃべっとるんを聞いてた。赤い紐がどうたら」
 いつか犯人を見つけたら。頭の中でずっと繰り返してきた言葉。もしそんな場面に出くわすときがあるなら、もっとお膳立てされた、それこそ荒波が打ち寄せる崖みたいな場所になるんだろうと、勝手に想像していた。まさか家の前に停めた車の中で、頭突きを食わせたばかりの知り合いを相手にして犯人を追及する羽目になるとは、思わなかった。おまけにめぐみをコンビニで待たせているから、あまり時間もない。 
 筒元は観念したように、言った。
「俺らは、年に一回ヤマを踏むチームやった。お前がガキやった頃の話や」
 どこかで聞いたような話。頭がくらくらする。
「誰と?」
 おれが言うと、筒元はレッグスペースに置いてあるティッシュを数枚抜き取り、鼻に当てた。
「俺と、お前の親」
 何となく想像がついた。そういう仕事をするには、足のつかない車が必要だ。おれが黙っていると、筒元は続けた。
「三島もや」
 はじめて聞く名前。でも、正解はすぐに浮かんだ。おれはフロントガラスの先に映る景色を眺めながら言った。
「サンボか」
 筒元はうなずいた。血を拭き取り終えて、真っ赤になったティッシュを床に置いた。
「なんで、別の場所に連れて行かれたと思う?」
 筒元は言った。答えを待ちながら思った。それは、おれもずっと不思議に思っていたことだった。でも、怪しい車のライトが見えたとか、事前に気づくとすれば、そういう理由だと思っていた。問題は、それは六歳当時のおれが思ったことで、二十歳になる今まで更新されてこなかったということ。未だにおれは、それが正しい理由だと信じきっていた。
「お前、ええもん食ってたか?」
 思い出す限り、普通の生活だった。
「強盗があった年に、俺はこの家を建てた。サンボは今の事務所を更地から作りよった。お前の親はどないしてた」
 母さんが一度、次を外したら終わりとか、そういうことを言っていたのを覚えている。後から借金の話だと分かった。必要な記憶なのに、こういうときに限って出てこない。筒元は補足するように言った。
「お前のとこは、仕事でなんぼ稼いでも借金に追われてた。ギャンブルのせいや。おまけにサンボの頭越しに、スジもんからも金を借りとって、下手したら全員がバラされるとこやった。お前んとこの親は、責任を取ったんや。わがの生命保険で、借金をチャラにしよった」
 つまり、おれの親は、あの日殺されるということを知っていた。
「サンボともう一人は? あんたちゃうんやったら、誰がやったんや」
『赤い糸』を間違えたのは、おそらくそいつだ。
「いつか足元掬われるぞ、ゆうててんけどな。独特な言い回しやから。正月かなんかで集まったときに、はっきり言うたんや。どこで誰が聞いてんか分からんから、もう言うなって。何年も一緒におって、一回も言いよらんかったか?」
 頭がぐらりと揺れた。おれは呟いた。
「伯父さんか」
 筒元は、顔をしかめて小さくうなずいた。筋金入りの犯罪者にも、理解できないことはあるようだった。
「昔かたぎの頑固なおっさんでな。弟のだらしなさにはうんざりしとった。借金チャラにした後も、保険はまだ余ってたはずや。それは大人になったら、丸々お前に明け渡す言うとったけどな」
 伯父さんの考えそうなことだ。おれは言った。
「降りろ」
「もうええんか?」
「お前んとこの娘をコンビニで待たせとんねん」
作品名:knuckleheads 作家名:オオサカタロウ