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⑥全能神ゼウスの神

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「魔導師長!」

館の門前で腕組みしていたギルが、私達の姿を見つけ走り寄ってきた。

「こんな状況の中、夜中に姿を消して朝帰りとは、いい根性してますね!」

皮肉を言いながらも、リカの帰りを喜んでいるようだ。

「しかも、何ですか?その派手な姿は。」

白銀髪に金色の瞳の姿に驚きながら纏わりつくギルを、リカは一瞥すると私の手を握ったまま無言で館へ入ろうとする。

すると、その肩をギルが掴んで止めた。

「決断、したんですか?」

リカは足を止め、ギルをゆっくりとふり返る。

「ん。」

小さく応えると、ギルが目を見開いた。

無機質な金の瞳に戸惑いながら、ギルはリカに向き直る。

「ほんとですか?」

「ん。」

「…ほんとにあの魔物を消すんですね?」

「ん。」

迷いなく即答するリカに、ギルは眉を潜めた。

(うん、その気持ちわかるよ。)

どう考えても、適当に返事しているとしか思えないリカを、ギルはしばらく見つめる。

「…この2時間、何してたんですか。」

(お、質問を変えた!)

「ん。」

やっぱり適当にしか返事をしないリカに、ギルは小さく息を吐いた。

「めいさん、連れ戻しに行ってたんですか。」

「ん。」

「めいさん、どこにいたんですか。」

「ん。」

「その派手なナリは何ですか?」

「ん。」

「朝ごはん、食べました?」

「ん………ん?」

(あ、すごい。ちゃんと反応した。)

「今朝は、フレンチトーストですよ。」

「!」

「魔導師長のために作ったのに、いないから」

「まだある?」

(さすが!)

巧みにリカの心を自分に向けたギルに感心しながら、やっぱり甘いものに目がないリカの可愛さに思わず笑みがこぼれる。

「ありますよ。食べたいです?」

「ん。」

「じゃ『今度こそ責任を果たす』って、みんなに約束してくれますね?」

今までのくだけた様子を一転させ、ギルは鋭い表情でリカを見上げた。

リカはそんなギルの視線を金色の瞳で真っ直ぐに受け止めると、ふわりとやわらかな笑みを浮かべる。

思いがけない表情にギルが戸惑った時、リカはその隙をついて館の扉に手を掛けた。

「もう後戻りできませんよ?」

ギルが最終確認をしてくる。

「ん。」

そんなギルに微笑みかけながらリカが一気に扉を開け放つと、そこには入り口を塞ぐように魔導師達が立っていた。

「…。」

険しい表情で居並ぶ魔導師達の気迫に、私は思わずごくりと喉を鳴らす。

すると、リカが私の手をぎゅっと握ってくれた。

それだけで、心は強くなる。

「魔導師長。」

色素の薄い水色の瞳をした、年配の男性が皆の前に歩み出た。

「ザイード。」

リカは静かに名前を呼ぶと、金色の瞳を和らげる。

「その姿は…。」

「皆に話がある。」

リカはザイードさんの言葉を遮ると、杖でトンと床を突いた。

「私は、ゼウスに戻った。」

そうリカが告げた瞬間、その場にいた全員がどよめく。

「だが、魔導師の力も依然持っている。」

ザワザワと落ち着かない魔導師達を、リカは手を挙げて制した。

その瞬間、シンと静まる。

神界の王としても、魔道界の王としても、威厳に満ちたリカは、確かに全能神だった。

「私は、やっぱり姉をこの手で消したくない。」

リカの素直な、正直な言葉に誰もが耳を傾けている。

「けど…魔導師の力は、時空間を移動できて歪みを調整できても、バランスをとったり浄化したりすることはできねー…。ただ、不要なものは消滅させるだけ。」

(そうなんだ…。)

「だから、ずっとヘラを消すことから逃げてきた。でも、ゼウスの力が戻った今、神の国の力も私の手中にある。両界の力を使い、負のオーラを浄化し正のオーラを取り戻させる。そして、きっとヘラを魔物から解放させる。だからもう一度、皆の力を貸してくれ。」

「わかりました。」

ザイードさんが小さくため息を吐いて、リカを見た。

「でも、これが最後のチャンスです。」

リカを真っ直ぐに見つめる色素の薄い水色の瞳は、どこまでも冷ややかだ。

「それが成功しなかったら、必ず消滅させると約束してください。」

リカは、珍しく即答しない。

私はそんなリカを励ますように、繋いだ手をギュッと握った。

すると、ハッとした表情でリカが私を斜めにふり返る。

(リカなら、必ずヘラ様を救うことができるよ。)

私が微笑みながら頷くと、リカが少し眉を下げた。

そして、小さく頷き返す。

「ん。…了解。」

リカが魔導師達に約束すると、ギルがホッとした表情を浮かべた。
作品名:⑥全能神ゼウスの神 作家名:しずか