小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

⑥全能神ゼウスの神

INDEX|5ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

喪失と復活


「…。」

「…。」

ベッドでリカと抱き合う私とイヴの赤い瞳が、驚きに見開かれる。

「…っえ…あ…ええ!?」

慌てるイヴを冷ややかに一瞥したリカは、私にシーツを掛けながら、ゆらりとベッドから身を起こした。

「白々しい。」

背中しか見えないけれど、その声色からリカが不機嫌なことが伝わってくる。

「おまえ、ずっとそっちにいただろ。」

「え!?」

リカは一糸まとわない姿で立ち上がると、床に落ちている私とリカの服を拾った。

「また始めそうだから、入ってきたんだろ?」

リカは手早く衣服を身に付けながら、イヴの方に歩いていく。

「あ、気づいてました?さっすがリカさん♡」

悪びれる様子もなく、いつも通りの笑顔でその怒りを受け流すイヴ。

「はぁ。」

リカが呆れた様子でため息を吐きながら、イヴを押し出すように寝室の扉を開けた。

「待ってな。」

そのままバタンと扉を閉める。

リカは素早くベッドへ戻ってくると、傍らに腰かけた。

スプリングが軋んで、少しそちらに傾く。

「大丈夫?」

やわらかな声色で言いながら、リカが手を伸ばしてベッドサイドのカーテンを開けると、早朝の少し霞んだ清々しい陽射しが寝室に差し込んだ。

その瞬間、私は驚きに目を見張る。

「…なに?」

リカが小さく首を傾げながら、怪訝そうに私を見た。

「…。」

私は目に映る現実が受け入れられず、呆然とする。

「めい?」

リカが心配そうに眉を寄せながら、私へ手を伸ばし、頬へ触れた。

「…。」

その瞬間、リカの動きが止まる。

見開かれた瞳が何か考えるように右下を向いたけれど、すぐに私を見つめた。

その様子で、私も自分の異変に気付き、胸が嫌な音を立てる。

(え…いつから私…?)

(…そういえば、リカを受け入れてる時…どうだった?)

(触れられても…光ってない…。)

(光らない、ってことは…『力を失った』てこと?)

頬に触れているリカの手に、思わず助けを求めるように自分の手を重ねた。

「…。」

けれど、やはり光らないことで、それが現実だと証明することとなる。

(ど…どうしよう、私…!)

小刻みにふるえ始めた私にリカはやわらかく微笑みかけると、安心させるように頬をひと撫でしてくれた。

(フェアリーの力を失った私に、何の価値があるの?)

「めい。」

私の心を読んだリカが、厳しい声色で遮る。

「だって…フェアリーじゃなきゃ、あなたの役に立てない…傍にいる価値ない…。」

「価値ってなんだよ。役に立つから…フェアリーの力がほしいから、傍に置くわけじゃねーよ。」

「でも…もう御祓の泉に入れない!」

思わずそう叫んだ瞬間、リカが目を見開いた。

「…なんで御祓…。」

リカは私を数秒見つめると、ハッとした表情になり杖を手に取る。

そして魔法を詠唱すると、床が鏡になった。

「…ゼウス…。」

そこに映った自らの姿を確認したリカは、小さく呟く。

「でも魔導師の力も使える…。」

言いながら杖と床に映る姿を交互に見つめ、しばらく考え込んだ。

「…失ったのは、私だけ…?」

声がふるえる。

ジッと考え込んでいたリカが、ゆっくりとこちらをふり返った。

そして青ざめる私に近づくと、優しく服を着せてくれる。

「めい。愛してるよ。」

唐突に告げられた言葉に、私は顔を上げた。

すると、鼻と鼻がくっつきそうな距離でリカと視線が絡む。

その瞬間、リカの頬が赤く色づいた。

「…。」

思わずその顔をジッと見つめてしまうと、リカがふっと金の瞳を逸らす。

「…聞かなかったことにして…。」

「え!?」

(どういうこと?)

(勢いで言っただけで本当は違うってこと?)

「あ~…違う違う。」

リカは私をギュッと抱きしめると、頭をそっと撫でた。

「『愛してる』なんて言ったことなかったからさ…ちょっと恥ずかしくて…。」

(…。)

(また『初めて』…なんだ?)

嬉しい言葉に舞い上がった私は、リカにギュッとしがみつく。

すると、リカも応えるようにギュッと抱きしめ返してくれた。

それから自然と見つめ合い、再び唇が重なろうとしたその時。

再び、不躾に扉が開かれた。

「リカさん!今、陽から連絡が入って」

そのまま、イヴが固まる。

「…サタン…。」

呟やく声色はどこまでも冷たく、怒気に溢れていた。

「…あれー?なんかこの部屋クーラーきかせすぎ?」

普通の人なら恐ろしさのあまり腰が抜けるだろうリカの凄みも、飄々とかわすイヴ。

リカは荒いため息を吐く。

「…ミカエルに戻ったんだろ?」

リカは鏡を消しながら、金色の瞳をイヴへ向けた。

「…はい。」

イヴは、なぜか先程のおどけた様子を瞬時に消し、憂い溢れる表情でリカを見上げる。

あれほど望んでいた『ゼウス』のリカがそこにいるのに、呆然と彼を見つめるばかりだ。

そう。

リカはなぜか、ゼウスに戻っていた。

「…フェアリーを、抱いたから?」

イヴが呟くと、リカは首を左右にふる。

「前例がねーから、わかんねー。」

そこまで言うと、杖で床をトンっと軽く突いた。

すると瞬時に床が暗転し、宇宙が広がる。

「ゼウスに戻ったけど、魔導師の力も残ってるし。」

「…じゃあ今のリカは、2つの世界から宇宙を守れるってこと?」

私の言葉に、リカはハッとした表情で私をふり返った。

そして私を見つめたまま考えを巡らせると、再びイヴに向き直る。

「とりあえず、おまえは神殿へ行きな。」

イヴは頷きながら、リカと私を交互に見た。

「リカさんとめいちゃんは?」

リカは杖で床を突いて宇宙を消すと、前髪をかきあげる。

「私は、魔道界に戻る。めいには引き続き、ここに隠れててもらう。」

その瞬間、魔導師達に詰め寄られていたリカを思い出した。

(あんな状況の魔道界に、ひとりで行かせられない!)

私は慌ててベッドから降りようとする。

「ジッとしてな。」

リカはふり返らずに、私を制した。

「…リカ…私も」

「おまえはここにいな。」

ピシャリと遮られ、私はぐっと唇を引き結ぶ。

(リカが私を守ろうとしてくれてるのは、わかる。)

けれど、私は守ってほしいわけじゃない。

お互いに支え合いたいのだ。

「…イヤ。」

低い声で言うと、リカが静かに私をふり返った。

「私はリカから離れない。」

「めい…。」

諭すように名前を呼ばれたけれど、私は拳をグッと握りしめ、勢いよく立ち上がる。

「守ってくれなくてい…!」

言いかけた瞬間、リカに注がれた愛情が零れ出すのを感じ体がビクッとふるえた。

頬を熱くなり腰が引けた私に、リカがゆっくりと近づき肩をトンっと押す。

そのままベッドへストンと座った私は、先程までのことを思い出し、よみがえった余韻にますます体が熱くなった。

「手早く終わらせて、また抱きに戻るから、ここで待ってなよ。」

リカが艶やかに微笑みながら、からかうように私の顎をするっと撫で上げる。

「!…セクハラ!!」

カッと頬が熱くなりながらすかさず拳を打ち込む私に、リカが楽しそうに声をあげた。

「あっはっは!」
作品名:⑥全能神ゼウスの神 作家名:しずか