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短編集25(過去作品)

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 もう一人の自分の存在に気づき始めてから、特に夢から覚める瞬間が分からなくなっているような気がして仕方がない。
――まさか夢から覚める瞬間だけ、もう一人の自分が介在しているのではないだろうか――
 とまで考えるほどである。普段から空想的なことをいつも考えている私なので、もう一人の自分が私の頭の中でどんどん膨らんでいるように思える。元々から大きな存在だったのか、それとも、私の発想が大きくしたのか、自分で納得できないことが増えてくると、すべてもう一人の自分が介在していると考えるようになっていた。
 そういえば「3」という数字を見た時、私の夢の中に初めて塔子が出てきた。
 今まで夢に、塔子を思わせるような女性の出現がなかったわけではないが、ハッキリと塔子だと分かるのは、今回が初めてである。カウントダウンが塔子との結婚への秒読み態勢だということを理解しているにもかかわらず、塔子は出てこなかった。
「数馬さん、私……」
 私の腕の中で、見上げるような目つきの塔子がはにかみながら呼びかけている。あらたまって言われるとこちらも緊張するものなのだが、夢の中の私に緊張はなかった。
――夢だからだろうか――
 とも感じたが、それだけではないような気がする。表情に硬さがなく、余裕を感じることができるからだろう。ここではもう一人の自分の出る幕はないことを感じた。
「どうしたんだい?」
 塔子の身体を優しく包み込むような口調は、自分の声ではないような柔らかさがある。女性のような優しさではなく、逆に力強い包容力さえ感じるのは、気持ちの余裕がそうさせるのだろう。
「実は私、もう一人の命を授かったみたいなの」
 夢の中の二人が結婚していることを、その言葉でハッキリと悟った。
「そうか、それは嬉しいことだ。僕たちの愛の結晶だね」
「ええ、そうよ、あなたに喜んでほしいの……」
 子供ができることを一番に願っていた私は、これが正夢であることを夢の中であっても確かなこととして記憶に留めておけると思っている。
――そうなんだ、自分の血を分けた子供なんだ――
 と思っただけで、とても落ち着いた気持ちになれる。
――もう一人の自分――
 記憶を消されたもう一人の私がこの世に誕生する。今まで私を幾度となく助けてくれていた私が、子供としてこの世に生を受けるのだ。そんな気がして仕方がない。
 カウントダウンは、私にとって結婚へのカウントダウンであるとともに、もう一人の私にとっての、この世に生を受けるためのカウントダウンなのだ。
 「3」が「2」になり「1」になる。
 きっとここからのカウントダウンは、私ともう一人の私とでは、違ったものになるであろう……。

                (  完  )

作品名:短編集25(過去作品) 作家名:森本晃次