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後ろに立つ者

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 確かにその日は、早めに会社を出たが、すでに日は暮れていた。車のヘッドライトが眩しくて、自分がどこを歩いているのか分からないくらいになっていた。
 急に目の前に白い閃光が光ったのを感じた。
 急激な痛みとともに、気を失ってしまった自分は、その時、薬品の臭いと、鉄分のような臭いを同時に感じた。目の前を赤い光が点滅しているのを感じた。それから意識がなくなっていったのだ。

――俺は死んだのかな?
 和代と康子、直子がシルエットで浮かんでくる。どうやら、不慮の交通事故で、信義は死んでしまったようだ。
 意識だけが走馬灯のように駆け巡る。
 それは、その日に何もなければ起こるであろう未来を、勝手に想像して、妄想の世界に入っていたからだ。
 いまだに、あの世からのお迎えはやってこない。
――俺はこのまま彷徨うのかな?
 彷徨いながらの妄想は、なぜか康子が気になっていた。自分が四十過ぎの中年であると思うと、娘にしか見えなかったが、死んでしまったことで、若返ったような気持ちになり、康子の中に和代を見たのかも知れない。
――まさか、俺が死んでいたなんて――
 虫の知らせはあったような気がする。しかし、本当に死ぬなど、誰が想像するだろう。死んでしまったことで、何かをリセットしたいと思う気持ちが生まれたのかも知れない。――リセットするとすれば、どこに戻る?
 そう思うと、改めて、自分の人生がリセットできないものであることを再認識した。リセットできると思った瞬間、自分に「お迎え」が来るのだろうと思えた。未練がなくなるからなのかも知れない。
 佐藤と会うのが怖いという思いもある。その思いがひょっとしたら一番強いのかも知れない。
 そして、今生き残っている和代が、信義を彷徨わせることになっているのだということを、妄想しているのではないかということを感じると、和代に一目惚れしてしまったことが、一番リセットしたいことであるということだと思うのだった……。

                   (  完  )



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作品名:後ろに立つ者 作家名:森本晃次