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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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ポジティぶ なんだから (最終話の前に第9話追加)

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第9話 妻を愛してますから



「あいつ離婚したそうだ」
「はい、噂を聞きました。もう戻って来れないですよね」
「俺はいつ帰って来てもいいと思うけど、おまえはどう思う?」
「僕もいいですけど、女性陣は許さないでしょうね」

ボスが営むビジネスのほとんどは、会社としてでなく、個人事業主としての契約者が多いんだ。
それだと会社の規則みたいなのがなくって、縛られるのが嫌だという破天荒な人ばっかりで、私生活が緩い人も多い。
でも中には、本気で人生をかけて頑張る人も多くいるから、いい加減なヤツは疎外されてしまう危険をはらんでるのは、まぎれもない事実なんだ。

「お前なら許せるか?」
「あの人が浮気してたんだから、奥さんのこと考えたら、すんなり受け入れちゃうと、こっちの印象悪くなりますし・・・」
「そうだな、逆に嫁さんがビジネス引き継いで、急に本気になったら、その方が信用出来るし、こっちは信頼されてないとな」

誠実な人はその家族関係も健康なので、ボスは誰とでも、家族ぐるみでお付き合い、というのが基本なんだ。
その旦那がいかにビジネスの才能豊かでも、僕たちはその奥さんや子供とも仲良くなるから、もし旦那の浮気が原因で離婚ともなれば、皆して奥さんに味方しちゃって、旦那はその仲間に戻ってくることなんか、決して出来るはずないってわけ。
つまり僕らは、浮気や不倫とは、縁遠いコミュニティってことなんだけど、言い換えれば、絶対にバレてはいけないんだ。

「お前、知ちゃん(妻)と仲いいから、心配ないよな」
「僕たちはお互い信頼し合ってますから、他の女性と飲みに行っても、全然許してくれますよ。それに知子だって深夜の帰宅だったら、僕が駅まで迎えに行ったりしますんで、お互いに怪しいとか思ったことないです」
「ほう、確かにお前ら見てたら、そんな安心感あるな」

僕と妻は、ボス夫婦をお手本にしてるんだけどな。
ボスなんか子供が大人になっても、奥様を“ちゃん付け”で呼んでるんだもん。
本当に仲いいんだから。

「もう何人くらい離婚しましたかね?」
「そんなん数えてられないぞ。結婚式みたいな区切りがない分、記憶に残らないから」
「多分、僕が秘書になってからは、10組くらい別れてますよね」
「え、そんなにか?」
「ええ、何百人かの関係者の中での話ですけど、学生カップル並みのノリですよね」

「別れた女房は慰謝料たんまり貰ってるだろうし、暫くは悠々自適だろ。旦那の方はせっかくビジネスで成功しても、慰謝料と養育費で、普通のサラリーマン並みのライフスタイルにまで落ちてるから悲惨だ」
「ええ、磯野さんはロイヤリティの半分の権利を持って行かれたそうで、今じゃ僕と年収は同じくらいらしいです」
「ははは、ベントレー乗ってたヤツなのに、もったいないことしたな」
「そう言えば、別れた葉子ちゃん、この前テレビ出てましたよ。お笑い芸人の初恋の相手として、『あいつ今どうしてる?』とかいう番組に」
「本当か? あの子、元々面白い子だったけど、お笑い芸人って誰だ?」
「Y興業のM.Dでした」
「まじか? 結構有名人じゃないか」
「地元が同じ高校だったらしいです」
「それがですね、葉子ちゃん、すごくファンキーに変化してて、もうバツ3なんですって(笑)」
「ははははは! そりゃ慰謝料だらけで、いい生活できるな」
「慰謝料ビジネスですね」
「彼女に、そんな才能があったとは(笑)」