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月とコンビニ
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オクターブ!‐知らない君に恋をした‐

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奏手「ご勝手にどうぞ」
絢斗「…」
 絢斗、困った表情で遊を見る。遊、絢斗に手でシッシとする。
絢斗、申し訳なさそうに教室を出る。奏手、遊の近くの席に座り、机に顔を伏せる。
遊「だいじょぶかい?」
奏手「だいじょぶじゃない」
遊「そうだよなー、そりゃ、そうだよなー」
奏手「なにやってんだろう、わたし」
遊「あー、よしよし。わかるわかる。俺だってそうだもん」
奏手「そんなことない、遊は凄い」
遊「いやいや」
奏手「あれを見て、あれからの絢斗を見て、それでも背中を押してるもん」
遊「…それはね、奏手。俺が、ずうっとそうしてきたからさ。慣れてるだけ」
奏手「遊」
遊「可能性が無いなんてことは、恋心を持ったその時からわかってるのよ。慣れ慣れ」
奏手「ごめん。私、自分のことばっかり」
遊「いやいや、可能性があるだけ奏手の方がずっと辛いはずなのよ」
奏手「ごめん、ほんとごめん」
遊「俺のことはいいから、自分のために泣けよ。ほら、なけなけー」
奏手「ん…」
遊「…」
奏手「…」
遊「絢斗は、俺たちのことを大切に思ってくれてるよ」
奏手「うん」
遊「それは、今まで何も変わらない」
奏手「うん」
遊「どうすんだ? 状況を見てさ」
奏手「…」
遊「ごめん、無理に言わなくていいわ」
奏手「逆に、どうだっった?」
遊「え?」
奏手「二人を見て、あいつを見て」
遊「あ、えっと、そうだなぁ」
奏手「うん」
遊「不格好だなって」
奏手「不格好」
遊「うん。いびつだけれど、まじりけのない、そんな感じ。よく分からないけれどさ、絢斗も白凪さんも、ありのままで居られるんだろうなって」
奏手「ああ」
遊「綺麗な形じゃない。円満じゃないかもしれん。でも、お互いがお互いのままで居れる。それって、まるで俺たちみたいだなって。それだったら背中が押せるなって」
奏手「私も」
遊「うん」
奏手「同じ様なこと考えてた」
遊「うん」
奏手「白凪さんも、クラスの時とは違って、なんか壁が無いみたいに感じて、絢斗も凄く楽しそうで…。でも、純粋に背中を押せない私が凄く嫌で、自己中だなって…」
遊「うん、うん」
奏手「だから…」
遊「どうする? その気持ち、否定しなくてもいいんじゃないかと思うよ。自己中だなんて、とっても素敵なものだと思う」
奏手「ううん」
遊「奏手」
奏手「わかってんだー。押す、背中押す。あいつが幸せなら、それが一番なんだ」
遊「…お前、いい女だな」
奏手「そう、逃がした魚は大きいの」
遊「絢斗も勿体無いことをしたもんだ」
奏手「ふふ」
遊「ふふふふふ」
奏手「ぐすっぐすっ…」
遊「はいはい」

 奏手、遊の腕の中で泣く。抱かれる方も抱く方も、胸に秘める想いを押し殺して。



 学校の片隅。喫煙所。再びけむりかおる。煙りをふかすみっちゃんの隣で、座り込む遊。

み「だりぃ」
遊「なにが?」
み「生きんの」
遊「希望持ちなよ、みっちゃん」
み「教師ってのはな、それはもう真っ黒なんだぞ。ブラックブラック。光なんて無いの」
遊「仮にそうだとしても、生徒の前で言うことじゃないよ」
み「それはごもっともだ」
遊「もう」
み「…」
遊「…」
み「…で?」
遊「え?」
み「煙吸いに来たのじゃねえのだろ?」
遊「…まあ」
み「憂鬱の虫でも抱えてんのか」
遊「まあね」
み「へぇ」
遊「ずっと追いかけてた人に逃げられただけ」
み「そうか」
遊「いつかは来ると思ってたんだ。先延ばし先延ばしで抱えてた問題が、くるとき来たってかんじだよ」
み「ふーん」
遊「ナルチシズムだー。言ってて気持ち悪いよー。奏手なんて、俺以上にぐちゃぐちゃだろうってのに」
み「ナルチシズムねぇ。いいんでね」
遊「えー」
み「若いから許される特権特権」
遊「そっかなー」
み「お前、妙に大人ぶってんのよ。人のこと言ってっけど、人は人、自分は自分。ゆうて十六、わけーのだから子どもでいろよ」
遊「…」
み「泣いてねーだろ」
遊「うん」
み「大人だって自分の為に泣くの。子どもならなおさらよ。まあ、それか他にぶつけるかだな」
遊「ぶつける相手なんていないし」
み「お前らって、なんでそんな友だちいないのよ」
遊「いるし」
み「ふん。まあ、人じゃなくても趣味とかな」
遊「…趣味?」
み「サッカーとか」
遊「…」
み「…」
遊「…」
み「…また、サッカーすれば?」
遊「…」
み「うち、十人しかいねーの。お前くりゃー、練習試合も組めるんだけどなー」
遊「仲良しクラブでしょ」
み「まあな」
遊「じゃあだめだよ。中学のときがあるし」
み「いられなかったんだろ。そりゃ、自分の価値観を人様に押し付けるのが悪いわな」
遊「反省はしてるよ。だから、絢斗はチームには入らない」
み「お前は?」
遊「え?」
み「なんか、乙無とか黒瀬とか人のことばっか。俺が誘ってんのお前なんだけど」
遊「…」
み「俺、サッカー部の顧問になんの夢だったんだよー。現実はくそだし、他のとこばっかまわされるし、いいもんじゃないけどなー」
遊「…」
み「高校サッカーで、最高のチームつくんだよー」
遊「仲良しクラブでしょ」
み「最強のチームなんて言ってねぇよ。最高のチームをつくんの」
遊「…」
み「Jリーグも海外サッカーも好きだけど、やり直せるなら高校サッカーだよ」
遊「…なんで?」
み「さあな」
遊「…」
み「…」
遊「…持ってるじゃん」
み「あ?」
遊「希望」
み「ああ」
遊「…」
み「持ってないなんて言ってないぞ」
遊「卑怯じゃん…」
み「なあ、来いよ、弦井。他じゃなくて、お前がどう思うかだろ?」
遊「………」
み「…それでいい」

 遊は顔を伏せて肩を揺らす。みっちゃんは嬉しそうに煙草をふかす。煙は空に消える。



 帰り道。奏手と絢斗は、いつもの道を歩く。

絢斗「久しぶりだな。一緒に帰んの」
奏手「うん」
絢斗「あのな、奏手…」
奏手「今日、遊は?」
絢斗「ああ、なんか用事があんだって」
奏手「なんだろ。遊に限ってめずらしいね」
絢斗「そうだな。でもなんか、いいことだと思う」
奏手「え?」
絢斗「すっきりした顔してたもん。俺、遊のこたぁわかんの。なんかわかんねぇけど、いいことだよ」
奏手「ねぇ、それってわかってんの?」
絢斗「え、え、あれ、そうだな」
奏手「ぷふ」
絢斗「あれだ、通じ合ってる的な」
奏手「あはは、わかる気がするよー」
絢斗「…あのな、奏手」
奏手「うん?」
絢斗「前聞いたろ、奏手や遊に恋人ができたらどうするかって」
奏手「うん」
絢斗「わりぃ、あのとき、こういった時間が減るのってどうとかこうとか言っといて、今、俺が一番ぐちゃぐちゃにしてんだよな」
奏手「ああ、なんだ、そんなことか」
絢斗「そんなこと?」
奏手「うん」
絢斗「奏手が不機嫌なの、それが原因なのかと思ってた」
奏手「え、そうだよ」
絢斗「いや、そうなんかーい」
奏手「なんていうか、遊とも随分話したし、私たち色々と近すぎたんだろうなって」
絢斗「そっか」
奏手「けど、それで三人の関係が壊れることじゃないじゃん。ね?」
絢斗「ああ」
奏手「喧嘩もして、仲直りもして、そんなもんでしょ、友だちって」
絢斗「…そうだな」
奏手「泣いてんの?」