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月とコンビニ
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オクターブ!‐知らない君に恋をした‐

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遊「おいおいおいおいおいおいおいおい、いったい誰の為にやってると思ってんのさ」
絢斗「いや、めっちゃありがたいけど、なにこれ?」
奏手「私らのノリにのれねぇってのかYO!」
遊「へいへいへいへーい!」
絢斗「…、いけるに決まってんだろうがYO!」
遊・奏・絢「イェ!」
遊「捜索範囲は?」
絢斗「昇降口から教室まで。あと、体育館とトイレもであります」
遊「広いな。手を分ける。奏手は教室とその周辺を」
奏手「イエス、サー」
遊「絢斗は、昇降口周辺。俺は体育館とトイレを見る」
絢斗「イエス、サー」
遊「一七○○に教室で落ち合う。連絡は常時とれるようにしておけ。些細な痕跡も見逃すな。状況開始。GO!」
絢・奏「イエス、サー」
絢斗と遊、駆け足で教室を出て行く。
奏手「ふう。まあ、さがしてやりますか」
 奏手、スマホをさがし始める。
遊「奏手」
 遊が教室の入り口から顔を出す。
奏手「…なに?」
遊「いくぞ」
奏手「え、ほんとにやるの?」
遊「気になるだろ? 状況見るって言ったじゃないか」
奏手「まあ、そうだけど。趣味悪いって言われない、アンタ?」
遊「今日、奏手に言われたよ」
奏手「そうだった。背中押すんでしょ。そっとしときなさいよ」
遊「背中にも押し具合があるでしょ。何にしても情報が必要だよ、情報が」
奏手「せからしい奴っ」
遊「俺は、絢斗を知ってる。ホームルームの後の白凪さんの行先は奏手から聞いた。必ず動くけど、そっちがいかないなら俺だけでいくよ」
奏手「…」
遊「じゃあ」
奏手「…、わかったいくよ。ああもう、気になってるよ、いくって!」
遊「そう言うと思った!」
奏手「あーもう、幼馴染なんて嫌っ」
遊「ふふ、同感!」

 遊と奏手、歩いて教室を出る。雨音が大きく聞こえる。



 絢斗、廊下を歩いている。雨音に重なって「猫踏んじゃった」が聴こえてくる。立ち止まり、少し躊躇して、それでも一歩一歩、自分の中から湧き上がるものに抗えないかのように、音のする方へと進んで行く。

 しばし間をおいて、遊と奏手がひそひそ、ばたばた、いそいそと通っていく。



 音楽室。白凪がピアノの前に立って、「猫踏んじゃった」を弾いている。

白凪「覗き見? 趣味悪いよ」
 ドアを開けて絢斗が入ってくる。
絢斗「ごめん」
白凪「どちらさん?」
絢斗「黒瀬。2組の」
白凪「ああ、乙無さんの」
絢斗「え?」
白凪「仲良いでしょ? 結構、目立ってるよ」
絢斗「昔馴染みなんだ」
白凪「そういうのうらましいわあ」
絢斗「…」
白凪「1組の白凪ですけれど」
絢斗「どうも」
 ドアの小窓から、遊と奏手の顔が覗く。
白凪「覗き魔さんは、どうして覗きを?」
絢斗「言い方」
白凪「ふふ」
絢斗「その曲」
白凪「猫踏んじゃった?」
絢斗「聞いたときあって」
白凪「有名だよ」
絢斗「そうじゃなくって、なんというかな」
白凪「…?」
絢斗「昔、夕方、公園沿いの赤い屋根の家」
白凪「…ああ、なつかしい」
絢斗「あれは…、君?」
白凪「…」
絢斗「あ、えっと」
白凪「おいで」
絢斗「え?」
白凪「ほら、こっち」
絢斗「ああ」
 絢斗、白凪と共にピアノの前に立つ。
白凪「右手」
絢斗「右」
白凪「まねすんの」
絢斗「おお」
白凪「…」
絢斗「…」
白凪「そ、じょうずじょうず」
絢斗「は、はは」
白凪「左手つける」
 絢斗が右手、白凪が左手を弾く。ぎこちない「猫踏んじゃった」が響く。
白凪「どう?」
絢斗「え、あ、なんていうんだろ」
白凪「そのまま言って」
絢斗「気持ち悪いから」
白凪「言って」
絢斗「…確かめ合ってる」
白凪「…」
絢斗「あ、いや、会話してる? 受け答えっていうか…」
白凪「ふふ、ほんとだ、気持ち悪い」
絢斗「はは」
白凪「ううん、でも嫌いじゃない」
絢斗「あ、そうかな。いや、うん」
白凪「じっ」
絢斗「ん、なに?」
白凪「はい」
絢斗「え?」
 白凪、携帯電話を絢斗に渡す。
絢斗「これ」
白凪「この前も、覗いてたでしょ。変態さんだ」
絢斗「気づいてたのか」
白凪「性格悪いでしょ?」
絢斗「ああ」
白凪「思ってたのと違う?」
絢斗「…」
白凪「…」
絢斗「ピアノ」
白凪「ん?」
絢斗「また、弾きに来ていいかな」
白凪「うん」
絢斗「あ、いや」
白凪「ん?」
絢斗「そのまま言ってって」
白凪「わかった。そのまま言って」
絢斗「また…、また、会いに来ていいかな」
白凪「…へへっ、どうぞ。言ったよ。嫌いじゃないって」
絢斗「ありがとう」
 雨音が大きく聞こえる。
白凪「…雨、ひどいねぇー」
絢斗「あのさ」
白凪「なあに」
絢斗「そのままだった」
白凪「え?」
絢斗「思ってたのと違わなかった」
白凪「…」
絢斗「あの時のままだ」
白凪「…ありがとう」
絢斗「…」
白凪「また、おいで」

 遊と奏手の顔は窓の奥に無くなる。雨音、雨音、雨音。
 絢斗と白凪は立ち尽くす。二つの影が煙雨の中に消える。



 教室。教科書類をバッグに入れる絢斗の横で、椅子に座り机に頬杖をする不機嫌そうな遊。オレンジ色の光が二人を包んでいる。

遊「お寝坊さんは治ったのか」
絢斗「ん? そういえば、そうだな」
遊「楽しい?」
絢斗「いつもと変わらない日常だよ」
遊「ダウト」
絢斗「なんだよ」
遊「あってよかったな、スマホ」
絢斗「ああ」
遊「今日も行くのか」
絢斗「わりぃな」
遊「あーあ、俺たち三人の関係が壊れちまうかもなー」
絢斗「ばか、んな簡単に壊れるかよ」
遊「ふーん」
絢斗「遊も奏手も好きだし、逆もそうだと思ってっし」
遊「でも初恋の相手をとるって?」
絢斗「おいおい、二人にはちゃんと言っただろ」
遊「小学校の時からの片思いだって?」
絢斗「ああ、そうだよ」
遊「話したこともない女の子を遠目から見て?」
絢斗「ああ、そうだよ」
遊「へぇー」
絢斗「…」
遊「なーんて、うそうそ、冗談。最近かまってくれないから拗ねてみただけよ」
絢斗「あのなぁ、笑えないから。それだけ、俺、お前らが大切だから」
遊「知ってるよーん」
絢斗「ほんとに、わりぃとは思ってんだよ」
遊「気にすんなって。応援してる。恋愛はタイミングってね」
絢斗「なんだよ、知った風だなぁ。恋愛なんてしたときねぇだろ?」
遊「あるんだなぁ、それが。タイミング狂いっぱなし」
絢斗「おいおい、聞いてないんですけどぉー」
遊「話すよ、いつか。笑って話せるときにね」
絢斗「遊…」
遊「ふふ」
絢斗「まさか、熟女か…」
遊「いや、違うから。絢斗でしょ、それは。性癖を押し付けないでよ」
絢斗「俺も、好きになった人は熟女じゃなかったけどなー」
遊「いずれ熟女になるでしょ」
絢斗「それ、セクハラじゃないかなぁー」
遊「失言でございました。不適切な発言がありましたことを謝罪いたします」
絢斗・遊「誠に、申し訳ありませんでした」
絢斗「じゃあ、俺、行ってくるわ」
遊「頑張るんやで」
絢斗「おう」
 絢斗が教室を出ようとすると、入ってきた奏手とぶつかる。
絢斗「お、あ、ごめん」
奏手「あ、こっちこそ」
絢斗「あ、奏手。すまん、俺…」
奏手「どうせ、白凪さんのところに行くんでしょ」
絢斗「ああ」