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蘭陵王…仮面の美少年は、涙する。

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存在であるに、と、私は義父の乾杯の声に、我々は彼らによって許された存在であるに過ぎない。Mộ, hai, ba, という掛け声とともに、それは、1、2、3、という意味に他ならなかったが、声を立てて笑う義父の過ぎなかった、

日本を、

親日国と、

国である、

呼ばれる、

それらの、

許した、

結局のところ、

私は注がれたビールを、結局のところ親日国と呼ばれるそれらの国は日本を許した国であるに過ぎなかった。飲み干した後、美しい歴史の和解、にもかかわらず、彼らは許したに過ぎない、と、私たちは乾杯し、歴史に手を触れることなどできはしないその限りにおいて何ものも歴史を許すことなどできず歴史は決して何ものとも和解などしはしない。義父は持ち上げたグラスの底を指し、飲みなさい、と言うその甲高い声に押されて、私は一気に飲み干し、君は知っているか? Thô 、私は酔った振りをする。 ông Thô、君は、笑顔を作り乍ら私は、知っているか?歴史と和解しうる人間など存在しない。なぜなら、それはここに存在しないから。過ぎ去ったそれは何ものにも許されることなく、何ものをも許さない。緑色の壁によりかかったまま、私は Quần の背中を見つめた。海の水のように。Quần は立ち上がり自分の指先のにおいを嗅いだ。海に手を突っ込み、それは手を濡らし乍ら、窓越しの陽光に瞬き、Quần は、今まさにそれに手を触れていながらも、私たちは、それを手に掴むことなどできない。壁を一度叩き、顔を曇らせたまま Quần は、海の水のように。Nước 目の前に存在した海を của かつて掴みえたものは Biển いない。いつでも、常に、そして私を振り向き見た Quần は、Đi. と言った。Ông Thô cho chúng tôi. あの老人は待っています。Đi. 行きましょう、と、私たちには Thô の居場所などわかっている。真ん中の一番大きな平屋の正面に開かれた広い仏間に安置されているに違いない。日差しが3本並んだココナッツの葉を照らし、幹に刻まれたその陰が、それらが風に揺れていたあの日の午後、私は海の写真を添えてFace bookに記事をアップする。「ベトナムで老人たちが言う。1945年のことは忘れなさい、と。

わたしたちのように。

わたしたちは忘れてしまった、

アメリカのことも、フランスのことも。

ある種の人々はいう、

かつて占領されていた多くの国が親日国だ、と。

わたしたちは、忘れてはならない。

わたしたちが、彼らに許された存在に過ぎないのだということを。」絵にかいたような、良識派。インターネットの無力で卑屈なマジョリティ向きの。誰が?感傷的な文章がいくつものいいねを拾い、私は知っている、海辺の風に乱れた髪を整え、Thôはそして、彼は死んでいた。十数人の無意味な親族の人だかりを抜けて、まだ棺さえ用意されないまま、その一族の巨大な仏壇の前、布団の上に彼の遺体は横たわり、少し離れたところで壁にもたれたしわくちゃの老婆が間歇的に足をじたばたさせて泣きじゃくる。彼女の発作のたびに誰かが駆け寄り、言葉は掛けられ、それは Thô の妻だ。私は知っていた、少しだけ Thô より年下のはずの、そして Quần と目が合った瞬間に彼女は思い出したようにふたたび泣きじゃくり、四肢が暴れた。仏壇に置かれた i-Pod から流しっぱなしにされている読経は空間の低いところを支配し続け、Thô は名士ではなく、金持ちでもなく、政府の人間でもない、唯の老人に過ぎなかったが、多くの人間が彼に一目置いた。彼と話すとき、それは多くの人々に、かしこまってお伺いを立てることを意味した。上目遣いに媚び諂い乍ら、仮に、彼が太陽は東から昇るといったくだらないの言葉の羅列をしかその口から吐くことがなかったとしても。 何人もの人間たちが葬儀の準備に追われ、静かな、とは言えない声の群れの中で何かが設置されれば撤去され、不機嫌な喚声の中に再び設置されれば、いずれにしても撤去される。Quần が口早に祭壇作りに口を出す。せっかちで、気の強いQuần がいつの間にか指揮官のようなものになっていて、誰もが大声で彼の指示に文句を付けながら、祭壇は何度目かに組み上げられていく。ほとんどの人間を私は知っていて、私はほとんどの人間に知られていた。彼らの葬儀の流儀をなんら知らない私にできることは何もなく、誰にも拒絶されなければ、誰かに受け入れられているわけでもない、お互いにどうしようもなく霞んでいく、この希薄な無数の人間たちの気配の中で、私もふくめて、そして庭は静かに朝の光を浴びている。Ho ! と喉にかかった甲高い声がして、振り向き見ると、それは Hồ だった。