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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 因果を断ち切られたダーク・ファントムが消える。もう思念として蘇ることはない。また結界や〈邪柩〉に異変が起きない限り――。
「クソォ……セーフィエル……セーフィエル……お前が最大の叛逆者だ!」
 影は光によって消える運命なのか?
 それともただ姿が見えなくなるだけなのか?
「これで……終わりはしない……そう決められている……預言書にも書かれた運命だ……セーフィエル……次に会ったときは……」
 そして、ダーク・ファントムは跡形もなく消えた。
「次に会ったときはどうするというのじゃ?」
 嘲笑を浮かべたセーフィエルは、次の瞬間には優しい笑みでシオンに顔を向けた。
「行くぞ、シオン」
「できません、私にはここでの役目があります!」
 そこで口を挟んだのは雪兎だった。
「その役目は僕に移りました」
「なんですって!?」
 シオンは驚きを隠せなかった。
 すべてはセーフィエルの思惑どおり。
 だからと言って雪兎は完全に乗せられたわけではない。望んでこの場にいる。
 〈タルタロスの門〉が開いたとき、雪兎とセーフィエルが承認したからこそ、扉は開いたのだ。
 雪兎がここでダーク・ファントムを斬ることも決まっていた。
 そして、雪兎が新たな人柱になることも……。
「僕は〈ヨムルンガルド結界〉の一部となりました。そして、神刀月詠の力も持っています。あなたよりも僕のほうがより強力な呪縛となるでしょう」
「そんなことが許される筈がありません!」
 シオンは認めなかった。
 この場所に囚われていたシオンは、その意味を重々承知していた。
 だが、セーフィエルは、
「許されないというのなら、シオンが生け贄になった時点で言えることじゃ」
「私が生け贄なんて……私はワルキューレの一員として……」
「捨て駒にされただけじゃ」
「そんなことは!!」
「そこにおる雪兎は自らの望みでここに残る」
 雪兎はその言葉を承けてうなずいた。
「さあ、お行きなさい」
 もうこの場はシオンのいる場所ではなかった。
 それ以上の言葉はないまま、3人は〈タルタロス〉を去った。
 残された雪兎がつぶやく。
「さよなら……命」
 元の世界に残されることになるひとりの妹。
 たとえそれが雪兎が望んだことであったとしても、シオンを囚われたセーフィエルと何が違うのか?
 命にこの事が伝えられることはないだろう。
 だが、万が一知ってしまったら?
 静かに月詠が鞘に収められた。
 月が沈んだ世界に陽は昇らない。
 そこは闇に閉ざされた世界。
 いつまでこの世界は闇に閉ざされたままなのだろうか?
 もしかしたら久遠かもしれない。
 しかし、ダーク・ファントムは終わらないと言った。
 光が存在する限り、闇も存在するのだから……。

 3・31事件から数日が過ぎ去った。
 帝都の街は復興に向かっている。
 街に溢れていた強力な妖物たちはいつの間にか姿を消し、結界はさらに強力なものとなった。
 戦いで傷ついた多く者たち。
 ワルキューレたちの中にも重傷を負った者がいたが、彼らの驚異的な再生力ですでに完治していた。
 だが、その裏で女帝だけは病に倒れ、床に伏せっていた。
 セーフィエルが最後に残した復讐。
 〈ヨムルンガルド結界〉を弱らせたのは、シオンを救うためだけではなかった。
 月詠は〈ヨムルンガルド結界〉の力を得た。その〈ヨムルンガルド結界〉はセーフィエルが盛った毒に犯されていた。
 その月詠がダーク・ファントムを斬った。
 今やダーク・ファントムの本体は柩の中で毒に犯されて藻掻き苦しんでいる。その片割れである女帝にも同じ事が起きていた。
 すべてはセーフィエルの思惑どおり。
 シオンは外の世界に戻り、女帝にも苦しみを与えた。
 一方、シオンが躰から離れた時雨は――?
「はっくしゅん!」
 もう桜も散ったというのに、こたつを引っ張り出して中に潜っていた。
 そこへハルナが駆けてきた。
「テンチョったら、ちゃんと仕事してくださいよぉ」
「やだよぉ、寒いんだもん」
 寒さの後遺症は未だ残っているようだった。
「寒いってもう4月ですよ、しーがーつー!!」
「じゃあ7月になったら活動するよ」
 梅雨明けまでコタツに潜っているつもりだろうか?
「そんなこと言ってたらお米買うお金だってなくなっちゃいますよ!」
「それは困るね。じゃあちょっとバイト行ってくるね」
「ダメです、ダーメ! もう危ないことしちゃダメですから!」
「今までしてたじゃん?」
「もうダメなんです。そう決めたからダメなんです!」
 ハルナは自分が巻き込まれてみて、その危険を身に染みて実感したのだ。
 そうと決まれば時雨はコタツに潜るだけ。
「ああぁっテンチョったら!」
 叫んだハルナ。
 時雨の身体がコタツの中から引っ張り出される。
「ちょっとやめて……よ?」
 時雨は眼を丸くした。自分を引っ張り出した人物がハルナではなかったからだ。
「ひっさしぶりねぇん、時雨〜っ♪」
 そこに仁王立ちしていたのはマナだった。
 マナの出現に時雨はバッと起き上がって身構える。だいたいマナが現れるとロクなことがないからだ。
 その予想は果たして当たるのか?
 マナはある物を無造作にコタツテーブルの上に置いた。
 それはシンプルな指環だった。しかも2個。
 思わす時雨は、
「はぁ?」
 そんな時雨にマナは、
「とりあえず付けてみなさい!」
「はぁ?」
「まあ、いいからいいから!」
「ちょっと!」
 時雨は無理矢理指環をはめてこようとするマナから身を守った。
 なにがなんだか時雨にはわからなかった。
「意味わかんないから、説明しようよ!」
「簡単に言うと、ちょっと旅行先の古代遺跡でちょっと拝借してきたのよね」
「盗掘したんでしょ?」
「そーゆー言い方もできるわねぇん」
「言い方の問題じゃないよね?」
「とにかくパクって来たのはいいのだけれど、どんな力を持ってるのかわからないのよね」
 パクったとハッキリ口にした。
 そんな得体の知れない指環なんて付けたら最後だ。
 これでもマナは魔導士としては一流。そのマナがわからないと言っている物を身につけるなんて、無謀というのもほどがある。
 ここで時雨が取る行動はひとつ。
「ちょっと出掛けてくるねハルナ!」
 逃げた。
 家を飛び出した時雨は近所の商店街を駆け抜けた。振り返ればそこにはマナの姿が!
「こんなこと前にもあったような」
 しみじみと今年の初旬を思い出す時雨。
 逃げ込む場所もあとのときと同じだった。
 時雨が逃げ込んだのは神威神社の境内。
 未だ復興作業が続けられていた。
 巫女装束を着て境内を掃除している命の姿。
 時雨は死にものぐるいで命に泣きついた。
「みこと〜っ、マナにまた殺されるぅ〜」
「……はぁ、またか」
 さすがに呆れているのか命は溜息を落とした。
 時雨は子犬のような瞳で命を見つめ、何度も何度も彼女の肩を揺さぶった。
「わぁ〜ん、もうすぐそこまで来てるよぉ〜」
「わかったら落ち着け!」
 命は時雨を振り払って、その肩越しにマナが迫ってきているのを見た。