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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 なぜか大鎌を持っているマナが凄いスピードで近付いてくる。なぜ指環をはめようとしているだけなのに、大鎌を装備しているのかまったくもって不明だ。
「し〜ぐ〜れ〜ちゃ〜ん♪」
 ブンブン風を切って回される大鎌。
 ここまで乗りかかってしまった船だ。命も諦めた。
「仕方がないのぉ」
 身構えた命。
 マナもそれに応じた。
「命ちゃんヤル気満々ってわけぇ?」
「仕方ないじゃろう、それも定めじゃ」
「前回はちょっとしたトラブルで負けちゃったけど、今回はそうはいかないわよぉん!」
「ならばこちらも初めから本気じゃ」
 命は念を込めた御札をマナに向かって投げつけた。
「同じ手は食わないわよぉん!」
 前回、マナはこの御札を貼られて身動きを封じられている。
 マナは大鎌で札を切断した。
「ふふ〜ん、こうしてしまえば……っな!?」
 斬られた御札はヒモとなってマナの身体を拘束したのだ。
「いやぁん♪」
 イモムシのように地面でもがくマナを命は見下ろした。
「今回は呆気なかったのぉ」
 だが、往生際の悪いマナはこんなところではあきらめない。前回も黒猫になってしまってやむなく敗北したのだ。
 身体を拘束されたマナは念動力で大鎌を操った。
 大きな鎌で器用に身体に巻き付いた御札が切られていく。
 そしてマナ復活!
「おほほほほほっ、この程度でへこたれるアタクシではなくってよ!」
「じゃろうな」
 重々命も承知済みだった。
 命が空[クウ]に印を描く。
「汝は童の守護者なり、?招?!」
 命は右手の中指と人差し指で空[クウ]を突き刺した。
 その空間から飛び出してきた謎の影。式神を呼びだしたのだ。
 呼び出された式神の姿を見て時雨は唖然とした。
「……どう見ても」
 さらにマナも驚きを隠せない。
「ただのぬいぐるみじゃないのよぉん!」
 そこにいたのはクマのぬいぐるみだった。
 命は至って真面目に説明する。
「ポン太君じゃ」
 思わず時雨がツッコミを入れる。
「名前とかじゃなくて……ただのぬいぐるみだよね?」
「捨てられておったところを妾が保護した。それ以降、妾の式神となって家事手伝いなどをこなしてくれておる」
 前回呼びだしたのは掃除機だったような気がする。今度は家事手伝いだそうだ。ずいぶんと主婦思いの式神たちだ。
 命は輝く眼差しでマナを見つめた。
「お主にこの可愛らしいポン太君が倒せるというのか?」
 戦闘力とかの問題ではなかった。そもそも普段は家事手伝いという時点で戦闘力には期待できなかった。
 後退ったマナ。
「くっ……私が大のぬいぐるみ好きだと知っての所業ね。しかもクマのぬいぐるみを愛用してると知って!」
「知らん」
 命はバッサリ切り捨てた。
 しょんぼりした様子を見せるマナ。
「私の負けだわ。お詫びの印として時雨ちゃん、これを受け取って頂戴」
 と言われて、思わず時雨は手を出してしまったが最後。
 マナはすばやくあの指環を時雨の左手薬指にはめた。
「おほほほほほっ、引っかかったわねぇん!」
「ひどいよマナ!」
 わめいたところで後の祭りだ。
 時雨は指環を外そうとしたが、お約束どおり外れない。どうやら呪われていたらしい。
「外れないよこれ!!」
 だが、これと言って変化もなかった。
 命は時雨の手を取りまじまじと指環を見つめる。
「妖気は感じるが、妾にもわからんな。物理的に外した方が早いのではないかえ?」
 指環が外れなくなったときの最終手段は工具による指環切断だ。
 時雨は溜息を吐いた。
「はぁ……もっと大変なことにならなくてよかったけどさ。とりえず家に帰って石けん試してみよう」
 時雨はとぼとぼと家路に着いた。
 家に帰ると、いきなりハルナは飛び出してきた。
「テンチョ〜っ!」
 半分涙目で焦っているのは見て明らかだった。
「どうしたの?」
 時雨が尋ねるとハルナは、
「指環が外れなくなっちゃんだですぅ!」
 見るとハルナの指にもあの指環が。しかもなぜか左手の薬指だった。
「はぁ、ボクもだよ。でもさ、なんでハルナまで?」
「えっ……そ、それは……」
 急にハルナは顔を真っ赤にしてしまった。
 そんなところへゴスロリ少女……もとい、ゴスロリ男子の夏凛が飛び込んできた。
「お兄様ぁ〜、近所で仕事があったので遊びに来ちゃいましたぁ♪」
 時雨はまた溜息を吐いた。
「はぁ、だからさ……お兄様ってやめてくれるかな。なんの血のつながりもない近所の子だったってだけなんだから」
「お兄様……記憶喪失は?」
 時雨は過去の記憶を取り戻していたのだ。
 それにはハルナも驚いた。
「テンチョ、記憶が戻ったんですか!?」
「まあね」
「じゃあ、本当の名前も思い出したんですよね!」
「ボクの名前は時雨だよ。別に過去なんてどうでもいいんだよ」
 時雨は優しい笑みを浮かべた。
 ただならぬ雰囲気が時雨とハルナの間に漂っていることを夏凛は感知した。さらに二人の薬指の指環まで見てしまった。
「ぎゃ〜〜〜っ、お兄様いつその女と結婚なさったんですか!!」
「え?」
 時雨はきょとんとした。
 そこへまた新たな訪問者が現れた。
「仕事の依頼が会ってきたのだが、中が騒がしいもので気になって無断で入ってきてしまった」
 紅葉だった。
 そして、紅葉もすぐに二人の指環に気づいた。
「いつに結婚したのか時雨。式を挙げるのでれば報酬の代わりに私が準備してやってもいいぞ?」
「はぁ?」
 時雨はとんとん拍子で進む話についていけなかった。
 ハルナは顔を赤らめながら時雨に寄り添った。
「わたしたちそう見えますぅ?」
 まんざらでもなかった。
 そこへ時雨を追ってやって来た命。
「ほう、それで日取りはいつにする?」
 さらにマナまでが、
「おめでたい話ねぇん。式当日には私からのプレゼントとして、魔法花火をガンガンに上げちゃうわよぉん!」
 そして、夏凛は泣きながら走っていった。
「お兄様のばぁん!」
 それを見た紅葉は、
「妹が出ていったぞ、追わなくていいのか?」
「だからボクの妹なんかじゃないから。あっちが勝手に自称してるだけなんだって……はぁ」
 どっと溜息を吐いた時雨はコタツの中に潜った。
 コタツの外ではあれやこれやと式の段取りが話し合われている。
 風に乗って窓から桜の花びらが舞い込んできた。
 春麗らかな日々。
 帝都で1つの物語が終わり、同時に新たな物語がはじまろうとしていた。
 そして、聞こえてきたのは誰かの溜息。
 穏やかな世界に相応しい溜息だった。

 封印するもの(完)