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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 そして、〈裁きの門〉が開かれるところで〈ステラの黙示録〉を終わってしまっている。ここで未来が尽きたわけではない。この書を記していた途中で、魔導師ステラの命が尽きたのだ。
「どっちが勝つのかがわからないんだよね」
 果たして勝つのはどちらのメシアなのか。
 伝承によると、〈光の子〉と〈闇の子〉は二度に渡って戦いを繰り広げたとされている。
 一度目は人類が文明を気づく遥か以前。
 二度目は1万年ほど昔だった。
 金色に輝く六枚の翼を持つ天使と、闇色を湛える六枚の翼を持つ悪魔の戦い。軍勢とワルキューレを率いた天使軍が勝利を治めたが、悪の王を倒すことはできず、封印するに留まった。
「あの頃はアタシも若かった」
 そう呟いたヌルは〈夢幻図書館〉を後にした。

「あのぉ〜テンチョ、ちゃんと聞いてました?」
「ふわぁ〜ん」
 大口を開けて時雨はハルナに答えた。
「もぉ、テンチョったら!!」
「ごめんごめん」
「テンチョが聞きたいって言うから話してあげたのにぃ」
「話はちゃんと聞いてたからだいじょぶ」
 相手の顔を覗き込むハルナの瞳には、眠そうな表情をしている時雨の姿が映っていた。
「ホントですかぁ〜」
「ホントだって」
 誤魔化すように笑った時雨を見て、ハルナは怒る気もせずため息をひとつ吐いた。
 時雨がハルナに聞いていた話は、天使と悪魔が戦う神話だった。
 その神話では、〈光の子〉と呼ばれる天子軍と、〈闇の子〉と呼ばれる悪魔軍が天上界ソエルで戦いを繰り広げる話であった。この話の結末は、天使軍がかろうじて勝利を治めるものの、〈光の子〉と〈闇の子〉は互いの配下の一部と、決して堕ちては上がれないとされるリンボウと呼ばれる空間に閉じ込められるというものであった。
 リンボウに堕ちた天界人たちは、そのリンボウに存在した文明に溶け込み、時には権力者を影で操って歴史を操作しているのだと云う。
 今もなお、密やかではあるが、〈光の子〉と〈闇の子〉の戦いは続いているのだ。
 時雨は何か考え深げな表情をしながらお茶をすすった。
「どうしたんですか、テンチョ?」
「あぁうん、何でもないよ」
 記憶喪失のままハルナに拾われた時雨。未だに記憶は戻らない。しかし、今聞いた神話にはなにか感じるものがあった。
 まだ冬本番でもないのに、こたつの中に入っていた時雨はお茶を一気に飲み干すと、急に立ち上がった。
「ところでさぁ、今日って聖祭なんでしょ?」
「はい、そうですけど?」
「女帝を生で見れるらしいんだけど、どこで見れるか知ってる?」
「イスラーフィールの塔ですけど?」
「じゃあ、今から入って来るね」
「え!?」
「店番よろしく」
「ええっ!?」
 驚くハルナをよそに、時雨はさっさと家の外を出た。
 空は薄暗いグレー。けれども街全体は祭りということもあり、活気付いているように思える。
 イスラーフィールの塔のそびえ立つのは、帝都の中心部にあるエデン公園。夢殿やヴァルハラ宮殿も近くにある。
 公園は自然公園で、釣堀としても開放されている湖や、野鳥の多くすむ森があり、ほとんどの場所は立ち入り禁止区域で、イスラーフィールの塔も普段は立ち入り禁止区域に指定されている。
 広大な大地が広がる場所に、ぽつんとイスラーフィールの塔が立ち、その周りには女帝を一目見ようと多くの人たちが集まっていた。
「すごい人だなぁ」
 見渡す限り人、人、人、人しか見えない。
「はぁ、ここじゃあ、見えないよね」
 愚痴をこぼした時雨は人ごみの中に割り込んでいった。
「ちょっと。道を空けてくれませんか」
 時雨のずうずうしい行動に人々は不満の顔を浮かべたのだが、時雨の顔を見たとたん人々はすっと左右に別れ時雨に道を空けてくれた。美人の特権である。
 時雨が最前列に出たとき、ちょうどトランペットの音が高鳴った。女帝ヌルの御目見えである。人々は歓声を上げ歓喜した。
 女帝ヌルが塔のテラスに姿を現した。煌びやかな装飾の施された衣服を身に纏い、手にはユリの装飾の施された杖を持ち。彼女の両脇にはワルキューレが二人護衛についていた。
「1年に一度、こうして皆様の前に顔を出すことを心より楽しみにしておりました」
 美しい鈴の音か、ハープかフルートか、澄んだ女性の声が響き渡ると、集まった人々は静まり返った。
 容姿端麗な女帝ヌルにふさわしい声音。
 ヌルの声は超小型マイクによって集まった全ての人々の耳に届くことができる。
 そして、女帝の姿はカメラを通し、公園に設けられた巨大スクリーン映し出され、なおかつ衛星を使ってテレビで生放送され、全国民が見ることができるようになっている。
 話を続ける女帝ヌルは集まった人たちを見回した。
 微かであるが、ヌルの瞳に動揺が走った。その動揺に気づく者はまずおるまい。しかし、真横に使えていたズィーベンだけが、ヌルの動揺に気づいた。
 動揺を隠したまま、女帝ヌルは説教を説き、10分という短い時間を話した。
「では、また皆に会えることを楽しみしております」
 女帝ヌルはそう話を締めて、塔の中へと姿を消した。
 考え深げな表情をするヌルにたいして、ヌルの動揺を唯一察したズィーベンが声をかけた。
「どうしたのですか?」
「いや、ちょっとね、キミは感じなかった?」
「なにをですか?」
「ノインの気配が微かにしたんだ」
 このヌルの言葉を聴いて、ズィーベンと近くにいたフィーアの顔に衝撃が走った。
 ワルキューレに名を連ねるノイン。彼女が近くにいるはずなどない。それはありえないことだ。
 言葉を詰まらせる二人のワルキューレの顔を見て、ヌルの考え深げにうなずいた。
「キミたち二人が気配を感じなかったってことは、ボクの気のせいかもしれないね。ノインの身体も魂もタルタロスの最下層で眠っているのだから……」
 永久欠番とされるノインは、〈裁きの門〉をくぐったその先の世界――タルタロスの最下層で眠りについている。意識が戻ったとしても、この世界に出てくることは不可能なはずだ。だから、ヌルは自分の感じたノインの気配を否定した。
「祝賀会とか、とにかくこの後の予定は全部キャンセルして、出張中のワルキューレ全員を夢殿に召集して」
 ヌルはこうズィーベンとフィーアに命じ、ズィーベンはワルキューレの連絡、フィーアは祝賀会などの行事が中止になったことなどをどうマスコミに言い訳をするか頭を悩ませた。

 時雨が家に帰るとハルナがやさしく彼を出迎えてくれた。
「おかえりなさいテンチョ」
「ただいま」
 帰ってきた時雨は浮かない顔をしていた。
「どうしたんですぅ、浮かない顔なんてしちゃって」
「……なんかねぇ」
 そう言い残し、時雨は自分の部屋にこもってしまった。
 ハルナはすぐに時雨の後を追いかけ部屋の中に入る。
「どうしたんですかテンチョ、あたしでよかったらなんでも相談乗りますよ」
「あぁ、うん」
 元気のない返事をひとつ返した。すると、ハルナは時雨に向かって飛び込んでいった。
「ハルナパーンチ!!」
 必殺ハルナパンチが時雨を襲う!
 元気なさ気で、避けそうもなかった時雨だが、ハルナが飛び込んでくるのを見て、ちょっと横にずれた。
 ドスン! ハルナはお腹から地面に落ちてしまった。